第7夜 初陣
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り、ざり、ざり、じゃり。
荒地を踏みしめる足音に、聞き覚えのない音が混ざった。
「――ッ!!」
瞬間、トレックの心臓を鷲掴みにするような悪寒が駆け巡る。
決定的で、致命的な、自分たちに向けられた膨大な殺意。そして、まるで全身の血液が逆流するかのような得体の知れない悪寒。トレックの生存本能がありったけの力を振り絞って悲鳴をあげる。
斜め後ろを附随していたギルティーネもそれを感じたのか、サーベルに手をかけて前に出た。
瞬間、彼女の纏う空気が餓えた猛獣のように鋭く変容する。彼女の反応と自分の本能を重ねあわせた推論。それは、明確な回答をトレックの脳裏ではじき出した。
トレックは音のした方角へ、ギルティーネは低く唸り声をあげる狼のように低く腰を落とし、臨戦態勢に突入した。
じゃり、じゃり。
人間の足音ではない、もっと大きな何かが大地を踏みしめる音。
それは段々と近く、そしてその気配を鮮明に感じる距離に縮めていく。
緊張でからからに乾く喉を何とか動かし、トレックはギルティーネに小さく声をかける。
「……打ち合わせ通り俺がバックス、君はオフェンスだ。いいね?」
「………………」
その沈黙は、今この瞬間では快諾と取るべきなのだろう。基よりトレックにはそれを確認するほどの時間も余裕も持ち合わせてはいない。これから、15年間ものうのうと過ごしてきた人生の中で初めての、本物の『敵』と遭遇する。その事実が心臓の鼓動を極限まで高めていた。
砂を踏む音がペトロ・カンテラの照らせる限界範囲のすぐそばで停止し、周囲は微かな風の音を残して無音になる。
1秒か、10秒か、或いは1分ほど経っただろうか。時間の感覚が曖昧になるほどに一瞬が引き伸ばされ、時間が停止したような錯覚さえ覚え始めたその時――影の中が、蠢いた。
ずるり。
それは音もなく、滑るように闇の中から姿を現す。
其は醜悪にして邪悪。漆黒の世界にて漆黒の衣を纏い、しかして生ける存在に非ず。
其は古の刻より大陸の英傑を数多にも殺傷せしめ、未だ大陸を闊歩する支配者なり。
全身が漆黒に変色し、皮膚は爛れ、血走った眼球をはめ込んだ頭蓋はまるで獣。
肥大化した手足から黄ばんだ爪が剥き出しになり、人間の如く二本の足で立つその図体は3メートル近くある。そのおぞましく醜い出で立ちは、まさしく自然の摂理から外れた存在そのもの。
そして何よりそいつからは、臭いや体温が――『生命の息吹』が一切感じられない。
漆黒の獣は、闇の中で不気味に光を反射する眼を二人に向け、喉を震わせた。
『ル゛ウアアアアアア………アア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
び
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