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満願成呪の奇夜
第6夜 篝火
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 予め刻まれた呪法式に呪力を注ぎ込むと、カンテラはふわりと浮かび上がってトレックの上方4メートルほどでぴたりと止まった。トレックが左右に動くと、カンテラもそれに附随してついてくる。この動きがまるでペットのようで『ジャック』という仇名をつけているが、実際にはサンテリア機関からの借り物だ。

 『ペトロ・カンテラ』。呪法師が直接戦闘で使用する呪法とは違い、予め触媒の内部に呪力で作動する『式』と構造が織り込まれた最新型の呪法具だ。古来からの長方形のものとは違い、ペトロ・カンテラは天球儀のように複数の円が組み合わさったような形状をしている。中心の炎だけは最初に自分で灯す必要があるが、一度つけてしまえば後は呪力を燃料に燃え続ける。

 呪力の固有波長を自動感知して持ち主に付随し、一度力を籠めれば数時間無補給で火を灯し続けられる。上空から勝手に照らすために戦闘の邪魔にはならないし、高所から照らすことで最も厄介な影の隙間を可能な限り消すことが出来る。他にも様々な機能がある、呪法師にとっては夢のようなアイテムだ。
 ただ、とてつもなく高価であることや刻まれた式が複雑すぎて修理が難しいなどの問題もある。これを導入する際にレグバ元老院は相当渋い顔をし、法主との関係に亀裂が入ったという噂もあるほどだ。

 ギルティーネの方を見やると、上ったカンテラを無視するようにトレックの方を見つめていた。
 彼女は気が付くとこちらを見つめている。どうしたのかと尋ねたり理由を探ったりもしたが、どうやら意味はなく、ただ見ているだけのようだ。
 あの蒼緑の瞳を見ていると、何故か自分が責められているような錯覚を覚えさせられる。自分が何かの見落としをしているのか?癪に障る事でもしただろうか?様々な考えが脳裏をよぎるが、どれひとつとっても確認は出来ない。人形のように美しいのに、トレックはその目が少しだけ怖かった。
 
「――次。レトリック準法師、及びドーラット準法師。前へ」

 ギルティーネの事を人に託したあの教導師が声をかけ、トレックとギルティーネは砦の境界へ歩み寄った。目の前に広がるのは、完全に朱月が沈んだ呪獣の活動領域。それに飛び込む試練の時が、文字通り目前に迫る。既に光杖は背中に抱えているし、銃などの装備も整えた。後は暗黒空間に踏み込み、根源的恐怖を打倒して無事に帰ってくるだけだ。

「レトリック準法師。お前は属性の得手不得手がない珍しい呪法師だ。上の期待が無いわけでもない。ドーラット準法師を見事に御して戻って来い」
「……善処します」

 「上の期待」がどのようなものなのかは理解できないが、生きて戻れば知る機会もあるかもしれない。今はそれを考えているだけの心の余裕がない。
 トレックの返事を聞き届けた教導師はギルティーネの方に顔を向け、小さな声で囁
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