第5夜 邂逅
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牢屋の奥からは布のこすれ合う音が収まり、ちゃきり、と何か硬いものを装備したような音がした。
やがて、牢屋の中からギルティーネが現れる。その片手にはトランクとは違う細長いケースと、さっきうっかり置いてきてしまった鍵束が握られている。しまった!とトレックは頭を抱える。
――「君は罪人の管理を任された」と、あの教導師は言ったではないか。なのに罪人に鍵を預けてどうする!
自己嫌悪と眩暈に頭を抱えそうになったトレックの手を、突然ギルティーネが持ち上げた。
「えっ、な、何だッ!?」
「…………………」
ギルティーネは何も言わずに指でトレックの掌を開く。真っ白な肌からは想像も出来ないほどに暖かい感触。ギルティーネは開いた手に自らを拘束する鍵の束を置き、すっと手を引く。そしてギルティーネは細いケースを持ち上げ、その鍵穴をトレックの目の前に突き出して再び停止した。
「………俺が開けろ、ってこと?」
「…………………」
「でも、鍵束持ってるんだから自分で開けられたんじゃ……」
「…………………」
ギルティーネは首を縦にも横にも振らず、声を一切発することがない。最初はこちらとコミュニケーションをとる気がないのかと思っていたが、今の彼女は確かにこちらの瞳を覗き込むように見つめている。
いくらなんでもおかしい。呪法師という確かな立場にいる以上、自分から名前を名乗らないこと自体が異常なのだ。無口な人間はいるが、それでも最低限はかならず言葉を交わす。しかし、目の前の少女はまるでコミュニケーション方法が『欠落』しているような――。
(――『欠落』……?)
『彼女の『欠落』は余りにも大きすぎる』
『君なら誰も埋められなかった彼女の『欠落』を埋められる……そう判断されたのだ』
教導師の残した不吉な言葉がリフレインされる。
あれはトレックでなければいけないなどと言われるほどに他の『欠落』持ちと相性が悪いという事かと思っていたが、もしも彼女のこの態度そのものが『欠落』の結果なのだとしたら、彼女の『欠落』とは――!!
もしもトレックの予想が当たっているならば、これはもう相性云々の問題ではない。
それは人として、余りにも致命的な『欠落』だ。
「ギルティーネ・ドーラト……君はまさか。『言葉がきけない』のか!?」
『言葉がきけない』――言葉が喋れないのではなく、『答えられない』。それはすなわち、イエスノーの簡単な意思疎通や文書による意思疎通さえできないということ。
ギルティーネは、その言葉を肯定も否定もしなかった。
何故ならば――答えるという行動が、彼女からは『欠落』しているのだから。
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