第5夜 邂逅
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事に気付く。彼女にとっては慣れたことなのかもしれない。戸惑いながらも首の後ろにある鍵を解除すると、仮面が後ろから開いて中に纏められていた黒髪がぱさり、と落ちた。ほぼ無理やり押し込まれていたのか、くしゃくしゃに乱れている。
「髪は女の命」。そんなことを言っていた母親を思い出し、少しだけ彼女を気の毒に思う。取り合えず拘束を完全に解いたら持参の櫛でも貸してあげよう――そう思いながら仮面を外す。仮面内部には更に猿轡が噛まされていた。喋る事さえ罪人には許さない、ということだろう。外してあげると、唾液が糸を引いて床にぱたり、と落ちた。
同時に、完全に拘束が解かれたことを確認した彼女はゆっくりと立ち上がり、こちらを見た。
『人喰いドーラット』は、トレックの想像を絶するほどに、美しかった。
触れれば砕ける硝子細工なのではないかと疑うほどに整った顔立ち。
病的なまでに白い肌のなかで、桜色の唇だけが彼女の血色を感じさせる。
眩さに細められた蒼緑の眼光が、はっきりとトレックを捉えた。
「………………」
彼女は、口を開かない。ただじっと、こちらを待つように無言で見つめ続けた。
彼女に見とれていたトレックは、やや遅れて正気を取り戻す。
「あの……もう聞いてると思うけど、今回の『実地試験』で君のパートナーをすることになったトレック・レトリックだ。よろしく」
コミュニケーションの基本は挨拶と握手。トレックはギルティーネに対して手を差し出した。
しかし、ギルティーネはそんなトレックをまるでいない人間であるかのように無視し、牢屋の端に置いてあるトランクを開き、その場で拘束衣を脱ぎ始めた。
「………はいっ?あのぉ………えっ?」
するすると服が落ち、染み一つない芸術品のような少女の裸体が晒されているという理解の範疇を越えた現実に、トレックは頭がフリーズした。こちらに背中を向けているとはいえ、いきなり男性の前で裸になる女などいるものだろうか。こちらが見ていることなどお構いなしにトランクの中から下着や法衣を取り出して着こんでいく姿を呆然と眺めていたトレックだが、遅れて自分が覗きに近しい破廉恥な事をしている事実に気付く。
「……って、着替えるなら着替えるって言ってくれよ!?」
慌てて牢屋の外に飛び出したトレックは心臓を押さえて大きく息を吐き出す。本当に、何を考えていたんだろうか。女の子の裸を舐めまわすように観察するなど、どう低く見積もっても紳士のするべきことではない。
「よ、予想外の事態に弱い自分が恨めしい……というより、あの子に羞恥心とかはないのか?」
罪人となったことで羞恥心を受ける事に慣れてしまったのかもしれないが、当のこっちが慣れていないので勘弁してほしい所だ。
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