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満願成呪の奇夜
第3夜 大義
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戦場の境は余りにも簡素なものだった。

「これが……こんなバリケードにもなってない棒切れが、結界の内と外を区切る境……?」

 思わず、戸惑いの声が漏れる。
 『境の砦』から両脇に広がる、ただの木の棒や安っぽい看板が点々と突き刺されているだけの空間。よそ見でもした拍子に越えてしまいそうな絶対防衛線から少しでも出た瞬間、闇の狩人が牙を剥くというのだろうか。
 周囲の生徒も大半が同じ感想を抱いたのか、少しばかり唖然とした表情でこれから自分たちが向かうであろう戦場を眺めていた。そこに、年季を感じさせるしゃがれた声がかかった。

「驚いたかね、生徒諸君?だが、結界がある以上は防壁は必要ないのだよ。建設費も維持費も余計にかかるし、何より元老院が『金の無駄だ』と煩くて予算を下してくれんのでな」

 反射的に、全員が教導師にそうするように一斉に敬礼をする。声の主である初老の男はそれに軽く手を上げて応え、「楽にしてよろしい」と言った。高位呪法師が身に着ける上等な呪法衣を纏った男の隣に、今回の始動を担当する機関の教導呪法師が並ぶ。

「こちらは『境の砦』2号地の総司令を務めるロナルド・ローレンツ大法師である。実地試験における試験内容は全てローレンツ大法師に委ねられているが故、聞き漏らしのないようお言葉に耳を傾けよ」

 大法師――その言葉に、自然と全員の背筋が伸びる。
 呪法師には5つの階級が存在し、下から順に「準法師」、「法師」、「中法師」、「大法師」、そして教会の最高意思決定者である「法主」がそれに当たる。トレック達は最下位の「準法師」であり、ローレンツのような「大法師」になるにはその肩書を得るに足る大きな偉業や実績を認められなければならない。
 すなわち、目の前の老人は自分たちが尊敬すべき偉大なる先人。そのような人物が直接試験を行うというのだから、この実地試験が教会にとってどれだけ重要な儀式となっているのかが否応なしに理解できる。

 ローレンツ大法師は、生徒達をゆっくり見回した後に一度頷いた。

「では、試験内容を発表させてもらおう――」

 試験内容は単純明快だった。
 これより生徒は最低2人、最大5名のチームを結成して順次砦より五行結界の外へ出発。砦を出たチームはここより歩いて約1時間程度の場所に存在する大昔の仮設砦へ移動する。そして、仮設砦内部に予め待機している砦の呪法師に砦に辿り着いたことを証明する書類を受け取る。そして再び約1時間の道のりを経て砦に戻ってくるという内容だ。
 真昼にこれをやっても唯の長い散歩にしかならないだろう。しかし、これは夜に行なわれる。つまり、生徒は最低でも2時間の間、どこから襲撃されるかも分からない暗闇の中を歩き続ける必要があることになる。

 砦は当然ながら呪獣対策でこの上なく明る
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