第2夜 懸念
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めたとしよう。
決定後、それでも不安になるのが『普通の人』ではないのだろうか。
自分の級友たちは誰しも既にたった一つの事しか目に入っていない。つまり、自分が結果を出せるかどうかだ。そこからは緊張こそ感じられるものの、恐怖や不安というものが『欠落』している。自分唯一人を除いて全員が、だ。
トレックとてこの試験を受けるかどうかは散々悩んだのだ。だが、これ以外の職種に進むのは所謂エリートコースだ。才能だけでなく家柄や財力、一点に秀でたストイックな才能無しに歩める道ではなかった。自分の命か、家族の笑顔か……そんな陳腐な言葉を天秤にかけて、漸くトレックを命を賭ける覚悟を決めたのだ。
なのに――自分と周囲の温度差は何なのだろう。同じだけの選択を迫られた者もいる筈だし、期限いっぱいまで悩んだ生徒がいるのもトレックは知っている。なのに、今この空間でトレックと同じ気持ちである人間がいないことを、何故か確信できる。
(俺もきっちり『欠落』してりゃ、あいつらと同じように平常心を保てたのか……?俺が普通だからこいつらと同じ強い覚悟が出来ないのか……?いつもこうだ、俺は。周囲に合わせてそれっぽい態度を取って凌ぐしかない……)
トレックはサンテリア機関に入って以来、集団行動の際は特に周囲の雰囲気から外れないように振る舞ってきた。自慢ではないが、周囲より模範的な生徒だった自負がある。
『欠落』持ちは、一度何かの琴線に触れることが起こると異様なまでに頑固になるため、教導呪法師相手でも食って掛かることがある。そんな中でトレックは指示にはしっかり従い、相手の譲れない点は受け入れて妥協し、誰よりも環境に順応した。
だのに、周囲には避けられた。
陰口で「あいつは気味が悪い」とか「何を考えているのか分からない」などと後ろ指を指されることなど日常茶飯事だ。というか、陰口かと思って近づいたらそのまま面と向かって告げられて戸惑ったりもした。
周りに合わせるというこの行為が、『欠落』持ち達には奇妙で仕方がないらしい。
しかし、周囲と合わせて生きていくのは普通に生きていくのなら当然に求められるスキルだ。それを使用して何がいけないというのだろう。トレックにはそれが理解できなかった。そう伝えると、彼等もまたトレックの考えが理解できなかったらしい。以来、彼等はトレックと口の一言も利いてくれない。
トレックにはもう一つ不安があった。
この実地試験は、これまでのサンテリア機関内の訓練と同じくコンビもしくはチームでの行動が原則となる。これまでの訓練等では様々なチームに割り込ことで誤魔化してきたが、彼らもこの重要な試験を前にすると出来るだけ不確定要素を排除しようと動き出す。そのため、トレックはずっとどうやってこの試験を受けるかという根
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