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満願成呪の奇夜
第2夜 懸念
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 だが機関に入る人間は誰しも才能に満ち溢れている訳ではなく、向き不向きを抜きにしても職種の競争率を考えて路線変更する者も多い。そうすると最も需要の多い――直接的に呪法を行使する立場となる戦闘呪法師を目指す者が多くなるのは必然だ。

 危険は他の職種に比べて多い。体力や忍耐力も求められるし、最も転勤が多い。
 だが、戦闘呪法師は教会で常に需要があり、何より呪法師としての最も基本的なスタイルだ。
 そして、戦闘呪法師になる際に必須となる試験が存在する。

 『実地試験』――二十世紀以上に及んで大陸の民を苦しめ続ける大敵、『呪獣』と直接戦闘を行い、これを打倒する試験。

 人生でただの一度も直接見た人間がいない程に遠い存在である『呪獣』と直接対峙するだけでなく、こちらの命を狙う明確な『敵』と初の実戦を敢行して打倒する。呪法師が呪獣と戦うのは当たり前の事だが、同時にこれは生徒にとって非常に重要かつ危険な試験だ。

 その人生で初めての命を賭けた勝負だ。しかもこの試験は決して教導呪法師が手助けをしてはいけないという古来からの決まりがあり、年間必ず複数名の死者を出す呪法師最初の洗礼となる。

 この試練を越えられない呪法師は、実戦に於いて何の役にも立たない。

 これは、『呪法教会』で唯の一度も揺らいだことがない絶対的な認識だ。
 一般人からは時代錯誤だとか様々な非難を浴びることもあるが、『呪法教会』は逆にこう考える。

 ――戦う方法は十分過ぎるほどに教え込んでいるのだから、教連通り戦えば勝てる。

 ――呪法師に求められるのはつまり、戦いになった時に勝てるという事実であり、能力ではない。

 ――そして何より、仲間の死という現実を受けてもなお進む覚悟無くして呪獣と戦う事は不可能だ。

 故に、戦う勇気がない者は戦い以外の方法を模索して実戦呪法師を諦める。
 実戦試験とは、近しい誰かや自分自身が死ぬことを覚悟した者だけが受けるのだ。

(………本当にそれだけ、か?)

 『実地試験』参加者の一人として馬車に揺られながら、トレックは一人で自問する。
 今、彼が乗っている大型馬車には実に30人もの試験参加者が己の得物を手に試験場所の到着を待っている。そのメンバーの中に、誰一人として顔が青ざめている者はいない。
 皆が皆、張りつめた糸のように神妙な面持ちでこれからの試練に立ち向かおうとしている。

 ――異常だ、と。

 この中で一人だけ必死に顔色を隠しているトレックは思わずにはいられない。
 自分の命だ。毎年死人が出るのなら自分だって確率的には死ぬ可能性がある。そして死ねば永遠に目が覚める事はなく、これまでに積み重ねた全てを無に還される。そんな恐ろしい現実を突きつけられて、仮にそれでも受ける覚悟を決
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