第2夜 懸念
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トレックは普通だった。両親も普通であり、家族関係にも問題は起きなかった。きっちり『欠落』持ちに避けられたし、普通の子供たちと一緒に遊んだ。だから自分には『欠落』がないのだと思い込んで14歳まで育った。
だが、事実とは数奇なものだ。
この年、トレックは家族で旅行に行った『潮の都』で『とある重大な事件』に巻き込まれ――そこで自分に『呪法』の素養があることを知った。後は説明するまでもない。それほど裕福な家庭に育ったわけでも成績が優秀な訳でもないトレックは、これ機に『呪法師』となって親の恩に報いようと考えた。
結果、トレックは見事に孤立した。
考えてみれば当たり前の事だ。トレックはこれまで普通の人間として生きてきたのだから、その精神は明らかに『欠落』が見当たらない。だから、普通の人間と相容れない『欠落』持ちしかいない環境で、周囲に馴染むことが出来る訳がない。
トレックから相手に話しかけることで会話が始まることはあるが、相手から会話しようと思ってトレックに話しかける人はいない。同じ人間である筈なのに、まるで同じ人間だとは思われていないかのようだった。
特に苦しんだのは合同作業だ。『呪法師』は2人から5人までの人数で行動するのが基本であるため、実技試験の多くがチーム行動を求められる。その度にトレックは無理を言って既存のコンビやチームにいれてもらう事で潜り抜けてきた。
『欠落』持ちとはいえ理性のある人間なのである程度理解を示してくれる者もいたが、遠慮や思いやりというものが『欠落』した同級生からは『二度と来るな』と釘を刺されたりもした。『一般人の来るところではない』と皮肉られて腹が立ち喧嘩になったこともあるが、勝った所為で決定的に嫌われた。しかもそのせいで更に皮肉が悪化して、一部の同級生からは蛇蝎の如く嫌われていた。
サンテリア機関の修了過程は3年。彼が編入してからまだ1年ほどしか経過していない。単純計算で彼はあと2年、この半孤立状態を継続しなければならないことになる。最初はどうにか乗り切ろうと思っていたトレックだが、過酷な環境は人間の決意など紙切れのように吹き飛ばす。
――次の実地試験を最後に、この学び舎を去ろうか。
そんな考えさえ過っていたこの頃……彼の耳元に悪魔の甘言が届いた。
『君に専属のパートナーを用意しよう』
哀れな生贄は、驚くほどあっさりと引っかかった。
= =
サンテリア機関は単位制度となっている。学べる学問は単純な教養から政治、農耕、経済、更には医学に到るまであらゆる分野が存在し、生徒はそこから自分が将来に目指すべき職種に合わせて単位を修得していく。そのためいくつかの教養と基礎呪法等の必須単位以外は自分で選んで決めなければならない。
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