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満願成呪の奇夜
第1夜 数奇
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かったからだ。その様はまるで狼の群れに紛れた一匹の羊だった。

「〜〜〜っ、参ったなぁ。呪法師はペアやチームを組んで行動するのが大原則だってのに………」
「これも『混沌の時代』が生み出した新たな種という訳か?」
「この男を追い出す訳にはいかないか?」
「成績、人格共に問題がない候補生をですか?しかも既に『呪法』を一通り習得している。それを今更追い出すなど余りにも可哀想ではないですか」
「目の上のたんこぶだ。事故で死んでくれると有り難い」
「やめろと言っている。まったく、これだから思いやりが『欠落』した奴ってのは……」

 しかし、これは強引に解決できる問題ではない。
 今までも『欠落』の大きさ故に扱いが難しい人間は多くいたが、彼らは最終的に『欠落』と『欠落』の凹凸が一致する、互いを補い合えるパートナーを発見することでこの問題を解決してきた。性質の違うマイナス同士を組み合わせることによって結果的にプラスに転じる。これを『欠落の反作用』と呼ぶ。
 ところが彼は『欠落』持ち同士のシンパシーをまったく感じられない。これではパートナー以前の問題だ。決して他のパズルピースと組みあうことのない、凹凸ゼロのピースだ。

「まったく……もう一人の問題児の話し合いが後に控えているというのに早くもこの様か……」
「え?まだいるの?」
「いるんだよ。それも教団始まって以来のとんでもない『欠落』持ちが。今議題に上がっている彼が凹凸のないピースなら、次の子は他のピースを呑み込む大穴持ちだ」
「……それだな」
「何?」

 教導師の一人が、にやりと笑った。

「前代未聞の問題児と前代未聞のボッチ……『欠落』のなさすぎるピースとありすぎるピース……二つを組み合わせれば、『欠落の反作用』が起きる可能性は十分あると思わないか?」

 トレック・レトリックの名が記された書類の上に、ぱさりと乾いた音を立てて新たな人物の名が記された書類が落ちる。そこには、少女の顔写真と共に『ギルティーネ・ドーラット』の名が刻まれていた。

 大陸で生まれる全ての人間が呪われて生まれ、呪われて生き、呪われて死す。
 ならば、この二人の運命が資料の上でかちあったことも悪魔の呪いなのだろう。

「失敗しても教団に損はない。それでいいだろう」
「失敗したらどうする?」
「『大地奪還』は近い。劣等呪法師には結界外調査団にでも派遣して最前線で華々しく散ってもらうとしよう」
「やれ、まるで俺達は悪魔だな。将来有望な若者たちの運命を、書類の上で転がしている」
「似たようなものかもしれないな……なにせ我々は、どこまで行っても呪われた民でしかないのだから」

 例えそれがどれほど数奇な運命であろうとも――その出会いは、悪魔に魅入られている。
 
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