第1夜 数奇
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『欠落』の正体は掴めない。
故に大半の『欠落』持ちは自らの『欠落』の正体を知らない。
知らないまま、それでも彼らは人と比べて自分がどこか『欠落』していると感じ、人知れずその風穴に苛まれる。だからこそなのか、彼らは同じ『欠落』を持つ者同士で助け合う。欠落した部分を仲間の優しさで埋めるかのように、手と手を取り合う。
『欠落』のある人間に孤独な者は存在しない。
それが、今までの常識だった。
――そんな中、サンテリア機関所属の呪法教導師たちはある問題に頭を抱えていた。
「彼には本当に『欠落』があるのか?」
「恐らくはあるのでしょう……なにせ彼は『呪法』を扱うことが出来るのだ。必ずどこかに『欠落』はある筈です」
「しかしこれは異例の事態だぞ………まさか呪法師候補生に爪弾き者が現れるとはな。何故栄えある教会に斯様な男がいるのだ?」
「試験では何の問題もありませんでしたから。ただ、調書によると本人も『呪法』の素養があることを知ったのはつい最近だそうです。よほどみみっちい『欠落』なのでしょうね」
「ミスターボッチだ。教会の歴史に残るボッチの誕生だ」
「やめてさしあげろ!可哀想だろ!?」
議題に上がっているのは、今年『サンテリア機関』に編入されたばかりの少年の一人だった。
名をトレック・レトリック。資料には緊張で若干顔が引き攣った少年の写真が張付けてあった。データによると年齢15歳、男性。成績は到って普通。生活態度も普通。特筆する点のない、ある意味模範的な生徒だ。にも拘らず、彼はたった一つだけ大きな問題を抱えていた。
周囲に避けられている。
人格に問題は見られない。むしろ社交的とさえ言える。チームを組ませればしっかり戦えるし、チームワークやコミュニケーションにも問題は見られない。課題達成率も全体で言えば高い方だ。なのに、彼は一度組んだ相手から敬遠されていた。嫌われているのとは違う。いじめのように意識的に除け者にされている訳でもない。なのに、避けられている。
その理由を問うと、彼の周囲は口を揃えて同じことを口にする。
『俺達と違う。まるで『欠落』のない、普通の人間みたいだ』
『欠落』した人間特有の仲間意識、波長のようなものが、トレックからは感じられない。
授業で教えている分には教導師たちは気が付かなかった。元々『欠落』のある人間とそうでない人間の違いはほんの些細な差異しかないから、接する期間が短い教導師たちはそれに今まで気が付かなかったのだ。だからこそ、教導師の気付かないままに彼は理由不明の孤立状態に立たされようとしていた。
これは極めて異例の事態だ。『欠落』持ち同士は多かれ少なかれ常人より仲間意識が強いため、孤立者が発生することは1000年間ずっと発生しな
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