第1夜 数奇
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結局、教会はこれ以上兵力が減って手遅れになる前に至急大陸全土を『呪獣』から取り戻すという選択を強行するしかない。そして、この強行的な態度の理由を民たちは理解できず、軋轢が生まれ、そこに多くの問題を生み落すこととなった。
学者は今を『混沌の時代』と呼ぶそうだ。今までになかった物が大陸に流入し、今までにあった怖れが忘却され、敵を目の前にして醜く利権を奪い合う。確かに今、この大陸は未だかつてない混沌の最中を彷徨っているように思える。
俺は、無事にこの時代を生きて行けるのだろうか――時々、ふとそんな不安に狩られる瞬間がある。しかし弱音ばかり吐いてはいられない。俺自身、この『呪法教会』の末席を汚す存在になったのだ。将来的にはこれらすべての問題とやらに立ち向かっていかなければならない。
逃げられないと分かってはいるのだ。
それでも内心、世界の問題は自分よりずっと後の世代に片付けてもらいたいと思っている自分がいる。
そんな無責任な事を考えてしまうのは、人として何かが足りない所為なのだろうか。
『欠落』しているのは勇気か?真剣味か?使命感なのか?
自分では自分の何が欠落しているのかが分からないことが、余計に俺の不安をかきたてるのだ。
4月2日 トレック・レトリックの手記――
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『呪法教会』の経営する呪法師育成組織『サンテリア機関』は、簡単に言うと呪法師を育成する学校だ。
入学資格は最低限の基礎教養。正常と認められる人格。15歳以上であること。そして何より『欠落』があること。最も重要なのは最後の一つであり、残りはそのついでの選り好みだ。
『欠落』は大陸の民が呪われた証であり、『呪法』の源でもある。魂に焼き付いた呪いを源に術を発動させるため、この呪いをエネルギーの単位として『呪素』と呼ぶこともある。つまり、『欠落』とは魂に組み込まれた『呪素』の塊が原因で起こるものであり、この『呪素』を薄めて抽出するのが『呪法』なのだ。
『欠落』のない人間に『呪素』が存在しないことは、研究でその事実が統計的に判明している。だから『欠落』があるというのは、そのまま『呪法』を使う素養があることを意味する。
しかし『欠落』は、具体的に何が『欠落』しているのか特定することが余りにも難しい。なにせ本人に自覚がない場合が殆どであり、生活を送る中で他人が『欠落』の疑惑を感じることがあっても具体的に何が『欠落』しているのかを特定しにくい。
『欠落』はその人物の心や認識の内にある小さな空白だ。『欠落』を除く他の全ては正常であり、その異常性が表面化するのはごく限られた瞬間だけである場合が多い。その僅かな異常――ノイズにも似たごく限定的な違和感の連続を根気よく観察しなければ、
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