三国一の傾城 〜小さいおじさんシリーズ6
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繁忙期を過ぎ、敢えて有休をとった午後。明日から土日。あと2日、ゴロゴロできる。そんな俺の穏やか過ぎる午後に反比例するかのように、『彼ら』はじっと床の辺りを凝視したまま、緊張した面持ちで押し黙っている。
3人の小さいおじさんは、今日も猫ちぐらの前で車座になって座っていた。
「…どうするんだ、アレ」
端正が小声で呟いた。いつもならここで白頭巾がなにか人を食ったような言動に出てひと悶着起こすのに、今日は妙に神妙な面持ちで首をかしげるばかりだ。
「しかし…なんとまぁ…」
反対に、豪勢は蕩けんばかりの目つきで、部屋の隅に現れた人物を眺めた。
「―――美しい、女よ」
長い黒髪をふんわりと結いあげ、銀に輝く簪をさした小さな麗人が、少し前から部屋の隅に佇んでいた。切れ長の二重はどきりとするほど美しく、細やかな肌のきめも輝くばかりだ。さぞかし、名のある傾城に違いない。あまりの美しさに、棚にあったブルボン菓子を全種類奮発して並べて置いたが、未だに手をつけていない。
「あの董卓と呂布を惑わせただけのことはあるのう。眼福、眼福」
貂蝉かよ!!
こ、これが三国一の美女…!俺程度の小者に、流し目一つでブルボン全部貢がせるくらいお手のものなわけだ。
「おめでたいな卿は」
端正が舌打ち交じりに吐き捨てた。っち、すかしやがって。これだから美周郎は。
「これがどんな厄介な状況か分からぬほど、卿とて若くはあるまい?」
「っち、煩い奴じゃの。その厄介な状況はまだ起きてもいまい。そんな小者だから貴様はこの世の贅を極めることもなく、ぱっとしないまま死ぬのだ」
「卿には言われたくない」
「で、どうだ。貂蝉を前にしてみて。貴様のところの小喬と、どちらが美しい?」
「なっ…よくそのような下司な質問が出来るな!!恥を知れ!!」
「うはははは…男なら誰でも興味があるだろうが!喬姉妹と、貂蝉。どちらが美しいか…の?」
野次馬根性丸出しの表情で、白頭巾のほうを振り向く。どうせまた、人を虚仮にした答えを用意しているのだろう…と思っていたが、奴は押し黙ったまま、ぴくりともしない。
「……なぁ、さっきからまったく反応しないな、貴様」
「………はぁ」
気の抜けたような返答。相変わらず、眉一つ動かさず、石のように固まっている。他の二人は、意味ありげに顔を見合わせた。
「卿、もしかして…だな」
「あぁ…嫁、あれだからな、前から疑わしいとは思っていたが」
―――貴様、ホモだろう?
「言いがかりです、汚らわしい!!!」
羽扇を震わせて白頭巾が立ち上がった。こんなに激高する白頭巾は初めて見る。貂蝉もふと顔を上げて、白頭巾の方をみた。目を上げると、睫毛がめっちゃ長い。目が合った瞬間、白頭巾が再び固まった。…もしかして。
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