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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十二話 行動命令
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だったからな。教え子を中心に艦隊幕僚を選んだようだ。
問題は俺なんだな。全然自分の艦隊が出来ていない。困ったもんだ。大体各艦隊の編制を優先している状態で、俺の艦隊は未だ何も無い状態だしね。まあ俺自身が出兵する事は当分無いから急ぐ必要は無い、そう割り切っている。
「いつの間にあれだけの人材を調べたのです」
「……内緒です」
原作知識があるなんて言っても誰も信じないな。キチガイ扱いされておしまいだろう。
■ 帝国暦487年2月10日 オーディン 宇宙艦隊司令部 ヘルマン・フォン・リューネブルク
なんとも底の知れない男だな。俺は目の前で書類を読んでいるヴァレンシュタインを見ながら思った。各艦隊司令官の抜擢と言い、司令部要員の配置と言い頭の中に人事データベースでも入っているのかと思ってしまう。
各司令官達は皆、驚くやら喜ぶやらだが、当の本人は余りたいした事ではないと思っているらしい。そのことが司令官達をますますヴァレンシュタインに敬服させている……。ローエングラム伯は判っているかな。自分が危険な方向に進んでいる事に。
戦争に勝つことで自分の実力を示し、諸将に認められようと言うのだろう。確かにそれは大事な事だし気持ちも判る。しかし、司令長官と司令官の役割は違う。司令長官の役割は司令官達を指揮統率する全軍の指揮官なのだ。極端な事を言えば自分で戦わなくても良い。
部下と功を競うのではなく、部下に功を立てさせる。第三次ティアマト会戦のヴァレンシュタイン大将を見れば判る。自ら戦うのではなく、戦って勝つ条件を整え、実戦は配下の司令官達に任せる。ローエングラム伯にそれが出来るだろうか。
彼らが勝利を収めれば、そのことがヴァレンシュタイン大将の功績になる。当然失敗すればその責めは大将が負う。強い信頼関係が無ければできる事ではない。ヴァレンシュタイン大将は既にその信頼関係を築いている。ローエングラム伯は未だその信頼関係を築けずにいる。
一年、いや半年早かった……。宇宙艦隊司令長官になるのは元帥になってからの方が良かった。そうすればもう少し彼も落ち着いて司令長官になれたろう。今回の司令長官就任は本人にとっても予想外の人事だったはずだ。その事が彼を苦しめている。
艦隊司令官としての能力は有るのだ。その事を疑うものは誰もいない。それなのに司令長官自身が自分の艦隊司令官としての能力を証明しようとしている。大事なのは管理者としての能力なのに……。
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