暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 15
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しいほど何の感情も滲ませてなかった気持ち悪い視線。
 あの視線と遭遇したのは、女衆とアーレストが家の前に集まっていた時。
 アーレストが教会へ戻る少し前だ。
 坂道の登り下りで掛かる時間を含めても、指輪が消えたであろう頃合いとぴったり重なる。

(関係ない、とは思えない。もしかしたらあの視線の主が、指輪を盗んだ後どこかに隠れていた盗賊だったかも知れないんだ)

 恐怖に固まってる場合じゃなかった。
 せめて、体が動くようになった後でも良いから。
 周辺をもっとしっかり、注意深く探るべきだったのだ。
 ……今更だけど。

「ミートリッテさん?」

 瞳を真ん丸にして茫然と立ち竦むミートリッテを(いぶか)しむアーレスト。
 目の前で右手を軽く振り

「あ……いえ、すみません。行きましょう」

 きょとんとする彼を放置して、ミートリッテは例の場所へと早足で歩く。

(ぼけーっとしてる場合じゃない。いくつか疑問は残るけど、あれが本当に指輪を盗んだ犯人で、海賊とは別の誰かなら……指輪は、もう……)

 依頼の完遂と引き替えに、一時的でも確実に恩人達を護る。
 そして、次の依頼が来るまでに海賊との縁を切る方法を考案、実行する。
 シャムロックのそんな願いは叶わない。

 依頼は多分、失敗した。

(だから諦める? 冗談でしょ。まだ二日も残ってる。考えなきゃ。指輪を探す方法を。指輪が無くてもハウィス達を護れる方法を。それができるのは私だけ。私にしかできないんだから、私がやるしかない!)

 汗が滲む手でバッグの持ち手を強く握りしめた。
 これも、もう使えなくなるなと自嘲で口元を歪ませて……立ち止まる。

「……神父様?」

 気が付けば、隣に並んでいたアーレストが、果樹園へ続く坂道をじぃっと見上げている。
 目線の先を追いかけてみても、そこにあるのは風に揺れる木々の葉だけ。

「この先が、ミートリッテさんの職場ですか?」
「ええ、そうです。完熟させた果実と、摘果した実で作ったマーマレードがおすすめな、この辺りで一番大きいオレンジの農園ですよ」
「……なるほど」

 何に納得したのか、険しかった表情がふわりと和らぐ。

「空もずいぶん黒くなってきましたし、急ぎましょうか。帰りはもちろん、お送りしますので。もう少しだけお付き合いください」
「それは構いませんが」

 にこっと笑って歩き出すアーレスト。
 彼に付き添う形で自警団員二人の間を通り抜け、住宅区へ入る。
 今日は女衆に取り囲まれることもなく、村の人達の足音すら聞こえない。
 みんな、大人しく自宅で過ごしているようだ。

「この造りは、すべてのご家庭から海を望めるようにとの配慮でしょうか」
「はい。一人暮らし
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