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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 15
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上に理を捻じ曲げず、生命が活力に満ち溢れている証拠です。此方に来るまでの街等では胸を引き裂かれる思いでしたが……こうした場所が残されていると知れて、僅かに救われました」
 「音、ですか?」
 ちょっと前にも似たような言葉を聞いた気がする。
 あれは……そうだ。教会のアプローチで鍵を預かって礼拝堂に入る時、ミートリッテの音が綺麗とかなんとか言っていた。
 「貴女にも聴こえているでしょう? さざ波の声、鳥や虫達の歌、風の囁き、植物達の語らいが。此処には無駄な物など一切無く、全てが輪を描いて繋がっている。あらゆるものが産まれ、生きて、死を迎えても地へ水へ還り、新たな命を育む糧となる。途切れることなく続き、されど二度と同じ旋律は辿らない、限られた刻の多重奏。私は、これ以上に美しい音楽を知りません」
 「……」
 舗装されてない道を住宅区へ向かって歩きながら、彼は本当に嬉しそうに笑っている。
 なんとなくだが……この人物を放っておいたら、蛙や羽虫を追い掛けて一日中場所を選ばず走り回ってるんじゃないかと思ってしまった。そんな子供っぽい真似はしないだろうけど。あくまで、なんとなく。
 「……私も、波の音は好きですよ」
 詩的すぎて所々意味が解らないが、自分を拾ってくれた村が好意的に見られているのは純粋に嬉しい。こそばゆい気持ちで微笑むと、細めた視界に映るアーレストの顔が急に強張った。
 何? と思うより先にサッと顔を逸らした彼が、一歩先を進み出す。その背中を目で追い
 「あ」
 「どうされました?」
 なんでもない様子で振り返った神父越しに、昨夕視線を感じた場所が見えた。
 (……私、莫迦だ。どうして直ぐに思い出さなかったんだろう)
 船で会った海賊達とは違い、恐ろしいほど何の感情も滲ませてなかった気持ち悪い視線。
 遭遇したのは、女衆とアーレストが家の前に集まっていた時。教会へ戻る少し前だ。坂道の登り下りで掛かる時間を含めても、指輪が失くなった時機とぴったり重なる。
 (関係無い……とは思えない。もしかしたらあの視線の主が、指輪を盗んだ後何処かに隠れていた人間だったかも知れないんだ)
 恐怖に固まってる場合じゃなかった。せめて体が動くようになった後、周辺をもっとしっかり注意深く探るべきだったのだ。……今更だけど。
 「ミートリッテさん?」
 瞳を真ん丸にして茫然と立ち竦むミートリッテを訝しむアーレスト。目の前で右手を軽く振り……
 「あ、いえ。行きましょう」
 きょとんとする彼を放置して、例の場所へと早足で歩く。
 (ボーッとしてる場合じゃない。幾つか疑問は残るけど、あれが本当に指輪を盗んだ犯人で、海賊共とは別の誰かなら……指輪は、もう……)
 『依頼』の完遂と引き替えに、一時的でも確実に恩人達を護る。そして、次の『依頼』
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