5部分:第五章
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第五章
「そしてです」
「そしてか」
「チャーチルを暗殺します」
それをするというのである。
「そうすれば戦局はかなり変わる筈です」
「ロンドンに降り立ちそうしてか」
「それは駄目でしょうか。私のこの技術ならばです」
「それもだ」
しかしであった。上官である将軍はだ。顔を曇らせてきた。そのうえで言葉も濁してだ。ハルトマンのその提案に対して言うのであった。
「駄目だ」
「それは何故ですか?私ならば」
「ゲーリングが言っている。全て自分でやるとな」
また彼の名前が出されるのだった。ゲーリングのだ。
「そう言っているからだ」
「しかしそれでは」
「駄目なのだ。ゲーリングの言葉は大きい」
話が軍事から逸れてしまっていた。明らかに。
「我々がそれを覆すことはだ」
「できないというのですか」
「したいが難しい」
将軍はまた言った。
「非常にな」
「ではこの戦いは」
「勝てないというのか」
「負けます」
率直に過ぎた。この場合はまさにそうした言葉だった。しかし彼はそれをあえて言ったのである。あまりにも率直な言葉であった。
「イギリスに対して」
「そう言うのだな」
「はい、敗れます」
彼はまた言った。
「このままでは」
「しかしこのままいくしかないのだ」
「では本当にそうなりますが」
「政治だ」
将軍は溜息と共に述べた。
「政治の話になる」
「では戦争とは」
「戦争は政治だ」
将軍はハルトマンにこうも告げた。
「軍人が行うものだが決めるのは政治家だ」
「しかしそれでは」
「敗れるというのだな」
「いえ、それは」
「隠さずともいい」
それはもう言うまでもないことだった。既にだ。
「それは次第に気付かれていることだ」
「左様ですか」
「ゲーリングは駄目だ」
将軍はまた言った。今度はそのゲーリングについてだ。
「あの男は確かに軍の階級は持っていて元軍人でもあった」
「はい」
第一次世界大戦の時はエースパイロットだった。レッド=バロンと呼ばれたリヒトホーフェンの次の撃墜王だった。そのことでも有名だったのだ。
「しかし今はだ」
「政治家ですか」
「政治力はあるかも知れないがあまりにも政治に走り過ぎている」
こう言って批判するのだった。
「そういう男だ」
「では。そういう男が指揮を執るとなると」
「敗れることも必定だ」
苦々しい顔での言葉だった。
「それもまた、だ」
「必定ですか」
「戦争は確かに政治の下で行われる」
戦争は政治的解決の一手段である。クラウセヴィッツは彼等のバイブルの一つであった。
「しかしだ。政治家がその戦争を政治を優先させて考えるならばだ」
「敗れます」
「戦争は戦場で行われる」
「その通りです」
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