第五話 私の存在意義
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は二度と妹と会うことができませんでした。本当に・・・ありがとうございました。」
翔鶴が深々と頭を下げた。
「いいえ、そんな!」
紀伊が慌てたように手を振り、榛名も首を振った。
「榛名は何もしていません。紀伊さんのおかげです。むしろ・・・・・。」
榛名は深々と頭を下げた。
「本当にごめんなさい。榛名が判断を誤ったせいで、大けがをさせてしまって・・・・・。」
瑞鶴は首を振った。
「私は大丈夫よ。数日寝ていればすぐによくなるし。ね、翔鶴姉。」
瑞鶴が翔鶴を見上げる。翔鶴は少し微笑み返したのだが、その顔色はあまりよくない。
「高速修復剤の申請は認められなかったのですか?」
榛名が聞いた。紀伊も不思議に思っていた。高速修復剤が使えれば、瑞鶴はここにいるはずがないのだから。
「ええ。ここのところ軍令部から支給される軍需物資が滞りがちなのに対し、出撃の頻度が上がってきていますから。制海権は相変わらず敵の手中に握られており、大陸からの補給も滞りがちであると聞いています。」
翔鶴が顔を曇らせながら話したところによると、各鎮守府ではかろうじて近海の制海権を確保しているのだが、一歩外洋に出れば、制海権はないも同然だという。もっとも大陸とヤマトとの間の補給航路については、舞鶴鎮守府が全力を挙げて維持しているため、かろうじてつながっているが、それもいつまでもつかはわからない。ヤマトの各補給物資は大半が大陸から輸送されてくるもので賄われているため、それが滞ることはヤマト自身が死滅してしまうことを意味する。
「そうですか・・・・。」
紀伊は戦局がこんなにも悪化しつつあることに驚くと同時に申し訳なくも思った。
「ごめんなさい・・・・。」
「えっ?どうして謝るの?」
瑞鶴が不思議そうに紀伊を見つめた。
「だって、私のせいで瑞鶴さんが大けがを負ったんですもの。私が足手まといだったから・・・・・。」
「バカなことを言わないで。ケガをしたのは私の凡ミス。あなたが命がけで助けてくれなかったら、私は轟沈してしまっていた。そうなれば翔鶴姉とも会えなくなっていた。だからあなたをうらむどころじゃないわ。とても感謝しているの。本当に・・・ありがとう。」
瑞鶴はすっと右手を差し出した。驚いた紀伊は一瞬ためらったが、それをそっと握りしめ、すっと言葉が喉の奥から出てきていた。
「本当に・・・早く良くなってくださいね。私、待っています。また・・・・一緒に戦ってくれますか?」
「もちろんよ。必ず、約束するわ。」
瑞鶴は強くうなずいた。
「あぁ、そうそう。」
瑞鶴は翔鶴をまた見上げた。
「翔鶴姉。」
「ええ。」
翔鶴は微笑んで瑞鶴にうなずくと、姉妹はそろって紀伊を見た。
「あれから瑞鶴に聞きました。紀伊さんは素晴らしい才能があるのに自信をお持ちじゃないって。」
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