第十一話 嵐の中でその五
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「ここにいなかったかもね、今は」
「私は決めたから」
「僕の傍にいるって」
「何があってもね」
それ故にというのだ。
「逃げなかったのよ」
「そう決めたんだね」
「悩んでね」
「お酒かなり飲んでたしね」
「正直飲まないとね」
相当にというのだ、優子はその時の自分も思い出した。毎晩これまでになかったまでに飲んでいた自分のことを。
「やっていられなかったわ」
「逃げたかった?」
「そうも思ったわ」
そう考えたことも隠さなかった。
「正直言ってね」
「そうだったんだ」
「消えたいとも思ったわ」
「僕の前から」
「どうしていいかわからなかったわ」
「そうだったんだね」
「けれど院長さんにも言われたから」
病院の責任者であり優子の一番の上司である彼にというのだ。
「こうした時はね」
「僕の姉さんだから」
「医師としてもね」
この職業からもというのだ。
「どうすべきかをね」
「それで僕に本当のことを言って」
「そのうえで守ろうってね」
「決めたのね」
「そうよ」
また女言葉になった弟に答えた。
「決めたから植物園で言ったし」
「それからもだね」
「そうよ、貴方の傍にいるわ」
「姉さんも決意したから」
「ええ、けれど私はね」
ここでまた自嘲気味に言った優子だった、優花が作ったボンゴレのオリーブと大蒜が効いたスパゲティを食べながら。
「弱いわね」
「姉さんが?」
「お酒に溺れて逃げたく思って、優花の姉さんなのに」
「そう言うんだ」
「すぐに決意しないで」
そして、というのだ。
「あれこれ悩んで苦しんで」
「それで弱いっていうんだ」
「ええ、駄目よね」
「いや、弱いことは」
優花もまたスパゲティを食べつつ優子に言った。
「悪くないし駄目でも」
「ないっていうのね」
「姉さんいつも言ってるじゃない」
「人は誰でも弱いって」
このことを言うのだった、姉に。
「そしてその弱いことを自覚してね」
「はじまるって」
「人にも優しくなれるし」
「守れるっていうのね」
「弱いから」
人の心はというのだ。
「そこから強くなれるんだって」
「ええ、確かにいつも言ってるわ」
「だから弱いってことはね」
「悪いことでも駄目なことでもない」
「一番大切なのは弱さを自覚することだよね」
「自分の中にあるね」
「だからね」
「このことはね」
優子は真面目な顔に戻って優花に答えた。
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