巻ノ四十二 大谷吉継その九
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「それから手柄次第で増える」
「三万石からですか」
「御主の手柄でな、そして励めばな」
手柄をさらに挙げていくと、というのだ。
「国持も夢ではないぞ」
「まさか」
「ははは、わしは才ある者を愛する」
だからだというのだ。
「御主がそれだけの手柄を挙げればじゃ」
「国持大名ですか」
「そうもなる、どうじゃ」
この誘いを耳にしてだ、幸村をだった。
兼続、それに十勇士達がだった。彼を無言で見た。それは既に決まっている問いを確認するものだった。そして。
実際にだ、幸村は秀吉にこう答えた。
「お言葉ですがそれがしは真田家の者です」
「だからか」
「真田家の者として生きまする」
「御主は今は二千石じゃったな」
「はい」
「それが三万石となり一城の主となるが」
「それがしはそうしたものには興味がありませぬ」
秀吉にもこう言うのだった。
「石高にも地位にも官位にもです」
「では好きな宝を言え」
今度はこれでだ、秀吉は幸村を誘った。
「御主の言葉次第でどの様な武具も茶器も手に入るぞ」
「宝ですか」
「金も銀もじゃ」
こうしたものも話に挙げてきた。
「千金でもどれだけでも出すぞ」
「そしてですか」
「御主に苦労はさせぬ」
富においてというのだ。
「好きなだけやる、それでもか」
「宝や金銀にもです」
「銭もか」
「全てです」
それこそという返事だった。
「それがしはです」
「興味がないか」
「折角の申し出ですが」
「そうか、全ていらぬか」
「義だけをです」
「義か」
「家への、そして天下の大義への」
そうしたものへのというのだ。
「それがあります」
「禄も地位も宝もか」
「全てです」
「いらぬか」
「どれも必要なだけあればです」
「それでよいか」
「それがしはそう考えていますので」
こう秀吉に言うのだった。
「申し訳ありませぬが」
「わかった、ではじゃ」
秀吉はここまで聞いてだ、確かな笑みになってだった。
幸村に対してだ、こう言ったのだった。
「御主は求めぬ」
「左様ですか」
「当家にな、真田家におれ」
「それでは」
「わしに心がないなら仕方ない」
幾ら優れた者であってもというのだ。
「そうした者を求めても充分に働けぬからな」
「だからですか」
「御主は真田家におれ、そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
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