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八神家の養父切嗣
四十八話:かつての英雄
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数分しか彼と話していないなのはですら理解できる。何もなければ思わず全面的に信じてしまいそうになる。だが、彼女には彼を信じられない理由があった。

「……分かりました。確かにあなたの言っていることは本当なんだと思います」
「理解してくれるかね。ならば我々の手を―――」
「でも、その前に一つ。救おうとしているのならどうして―――人を苦しめているんですか?」

 なのはの鋭い眼が男を貫くが彼は微動だにしない。漂わせる気品を欠片たりとも揺らがせることなく男は整えられた髭を撫でる。まるで質問の意味が分からないとでも言うように。否、それ以前に何故空気がこの世に存在するのかと当たり前のことを問われたような表情をする。

「それは犠牲となっているミッドの人々のことかな? それとも―――後ろの聖王のことかね?」
「……どちらもです」
「わざわざ答えねばならないかね。平和の為に犠牲が不可欠なのは当然のことだろう」

 平和を愛する心は同じでも二人の間には決定的な考えの違いが存在する。どのような犠牲を払ってでも最終的に大勢が救われれば問題ないと考える最高評議会。犠牲を決して良しとせずに何度挫折しようとも足掻き続けるなのは。求めるものは同じでもそこまでに描くビジョンが違い過ぎる。

「この世全ての悪を根絶すれば世界は平和となる。争いはなくなる。しかし、新たな世界に人々は戸惑い混乱が彼らを苦しめるだろう。だからこそ、管理局が導いていく必要があるのだ。世界を未曽有の危機に晒した事件を解決した新たな英雄(・・)をシンボルとして」
「つまり、この事件はあなたが作った……やらせなんですね?」
「そう悪く言わないでくれたまえ。今の管理局には以前ほどカリスマが無い。混迷する世界を導くには弱いのだ。これはより大きな善を成すためには必要な犠牲なのだ」

 確かに彼の言葉が真実であれば世界はほんの数百人程度の犠牲で平和になり、新世界で新たな繁栄を迎える。それはきっと正しいことなのだろう。犠牲に目を瞑り多くの者が幸福を享受する。賛同する者も多くいるはずだ。だが、しかし。高町なのははそれを認めたくない。

「そもそも、この世全ての悪を廃絶したらあなたも居なくなるんじゃないですか。誰かを傷つけることが悪じゃないわけがないもの」
「その通り、必要悪と言えど悪。元より、役目を果たせば悪を成す我らも世界から消えるつもりだ。だからこそ後継者が必要なのだ」

 自らが消えることも計画の内という破滅的なまでの願望になのはは一瞬言葉を失う。その次の瞬間には哀しみのような激しい怒りが彼女の胸の内に湧きおこっていた。

「そんな世界! 絶対に間違ってるよッ!」
「一体何が間違いなのかね?」
「自分も他人も犠牲にしないといけない世界なんて間違ってる!」

 あの日、ど
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