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まいどあり
第六話 魔道技師のお仕事
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合いの緑色の短髪だった。
 緑色の色素を持った体毛は、動物などではそれなりに見かける色合いではあったものの、人間の自毛では非常に珍しいものだった。

 皆無ではない。

 しかし、その髪色を持つ人間には何かしらの理由があった筈だったが、ライドはその理由を思い出す事が出来なかった。
 それはいきなりの状況に混乱しているというものあっただろうが、それよりも切実な問題からだった。

「店が! 僕の店が!」

「騒ぐな。折角の余興を台無しにするつもりか」

 最初の接触で既に被害にあったのだろう右の棚を指さしながら叫ぶライドに、腕を組んだままのターバン男は心底迷惑そうな顔をしながら苦言を垂れる。
 しかし、そんな男の態度にライドは既に恐怖を無くしたのか男の肩に手をかけて捲し立てる。

「余興!? 馬鹿言うな!! ここは僕の店だぞ!! あそこの棚も、中に入ってた材料も、全部少ない稼ぎでやっと買った僕の商売道具だぞ!? 訳も分からないままいきなりこんな事に巻き込まれて、財産破壊されるのを黙って見てろって言うの!? やるんだったらせめて店の外でやってくれ!!」

「りょーかーい」

 肩に掛けた手に力を込めて男の顔を自分の方に向けようとしていたライドの行動を止めたのは、唐突に聞こえてきた間の抜けた声だった。

 声から少女の声だというのは分かった。

 わかったが、耳から入ってきた情報が即座に脳で処理されて理解できるかどうかは別物だ。
 多分に今の状況でライドにそれを望むのは酷というものだろう。

「……は?」
 
 だから、気の抜けたような声を出しながら声のした方に視線を向けたライドの視界に入った情報が、即座に脳で処理されて理解できなくても無理はない。

「ぐおっ!!」

 踏み込んだ際の板張りの音、赤色の消失、激しく打ち付けた金属音、短い苦悶の声を上げながらドアごと外に吹き飛ぶ緑髪の男。

 かろうじてライドが理解できたのはその程度の事だった。
 だが、理解できなくとも見たままの情報がライドにとっての真実で。

「お兄ちゃんの敵はお店の外でやっつけまーす」

 両手のショートソードを振り抜いた体勢で身を屈めていた赤色の少女が外に向かって飛び出していく。
 そんな日常の一コマのような雰囲気を残して店から消えた少女の姿を、ポカンとした表情のまま見ていたライドの態度に哀れみの視線を向けながら、ターバンの男は自身の肩に掛けられたままだったライドの右手を邪険そうに振り払うのだった。

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