第六話 魔道技師のお仕事
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男の呟きにライドは涙目で振り返る。
振り返る事が出来たのは首元に当てられていた金属の感触が無くなったからだが、今度は脇腹に金属の刃の感触を感じ取り、ライドは再び恐怖に体を固めた。
「ならば貴様の工房まで案内してもらおうか。だが、向かうまでの道中でふざけた真似をしたらどうなるか……わかっているな?」
脇腹に押し付けられた刃の感触に、ライドは無言ながらも必死で首を縦に振る。その行為は正に命乞いをしている人間のそれであったが、男は特に気にもせずライドの脇腹に刃を喰い込ませながら先を促す。
本来であれば最高に幸福だった筈の帰り道。
しかし、今のライドにとっては自らの死までのカウントダウンに思えてならなかった。
「こ……ここです……」
本来近道の筈だったのにいつもよりも余計に時間がかかってしまったのは、脇腹に当てられた刃物の感触に恐怖で体が固まってしまった事と、人の目を避けたからにほかならない。
何しろ、余計なことをしたら命がないと言われたに等しかったのだ。別段何か人より優れた戦闘力を持っているわけではないライドにとっては懸命な判断だったと言える。
その証拠に、ライドの背後に張り付いている脅迫者も目的地に到着するまでの間非常に静かに着いてきていた。
自ら騒ぎを起こしたくないという心理はあっただろうが、ライドが大人しく歩を進めていたというのが一番大きな理由だろう。
「ここは倉庫か? 成る程。人の目が入らずに魔道具を選定するには絶好の場所だ」
「……」
ライドの店舗兼工房兼住居を見ながらそうのたまった脅迫者の言葉にライドは一瞬殺意を抱いたが、それを表にだそうものなら一瞬で物言わぬ骸になりそうだったのでグッと堪えた。
朝出発して以来の我が家だったが、既にその外壁に跳ね返る陽の光は灯色に変化しつつあり、文字通りどれだけの時間道草を食っていたかと言う事がわかろうというものだった。
そもそも町外れに位置する場所に構えているという事もあり人の通りも殆どなく、以前であればライドが外出しようものなら帰宅してくるまでライドの家の周りをギラギラした目付きで徘徊していた鬼の如き大家さんも、滞納の無くなった最近ではめっきり姿を見かける事も少なくなってしまった。
ひょっとすると、ようやく人並みの生活を送れるようになった所で旅行にでも行っているのかもしれない。
そんな場所を見ようによっては寄り添っているようにも見える男二人がいたとしても特に呼び止める人間もいるはずもなく、何事もなく店舗の入口にたどり着いてしまう。
そうして無人であるはずの自宅の入口に手をかけたライドだったが、
「……?」
ふと、出かける前にノブに掛けておいたはずの『不在札』が無く
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