第二十五話:対決・紅の姫騎士(下)
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、花のほころぶような笑み。
今の今まで無表情だった奴が……笑ったのだ。
俺が受けた衝撃は、筆舌に尽くしがたかった。
「……現世で会えるのは、コレでもう最後」
何も言えず呆然とする俺に、マリスは無造作に顔を近付けて来る。
ゆっくりと、元からない俺とマリスの距離が縮まる。
刹那にも、永遠にも思える時間の中……彼女の唇が、俺の唇と重なった。
「……だから、出会った記念が欲しい」
唇を放した彼女は、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう呟いた。
「……これは、クセになる」
余りに柔らかくほんのり甘い香りのするソレは、俺の中にあった感情を押しとどめてはくれない。
寧ろ燃料をくべたが如く……もっと猛れと燃え上がらせる。
無言で俯く俺を尻眼に、マリスは立ち上がりロザリンドの前に佇んだ。
ものも言わず此方に背を向けているのに、静かに目を閉じたのがわかる。
「は、破廉恥な事をしたのは目に余るが……良かろう、その潔さをくんでやる」
【天使の羽衣】を纏わぬマリスに、依然として赤い光を纏うままのロザリンドが剣を振り上げ、真正面から立ち割らんとしている。
「殺戮の天使よ」
その光景に―――俺の中に生まれた感情が―――
「覚悟ぉっ!」
―――『怒り』が―――――
「ふざけるなあああぁぁっ!!!」
抑えきれず、爆発した。
「はばっ!?」
利かない、などとは分かっている。
俺など碌に相手にされない事も、重々理解している。
それでも―――見逃せなかった。止まっている事は、出来なかった。
「り、麟斗君!? 君は何を―――」
「ぜあぁっ!」
「うぉわあっ!?」
ロザリンドの言葉など耳に入れない。元より入れる気もない。
拳を振い、只当てる事を考える。
「……麟斗……何、で?」
ああ、何でだろうな。
下手を打てば厄介な方向へ話が転がるのに、何故だか止まれなかった。
……いや、何故だかじゃあない、答えは分かっている。
マリスは初めて、“俺”を“俺”として見てくれた人物だったからだ。
前世だってそうだった。
冷たくとも家族や友達間に愛情がない訳ではない……そんなものは詭弁でしかない。
冷たいという時点で、最低限の接点しかない時点で、愛情などとうの昔に捨てられている。
何故そうなっていたのか、俺には思い出せない。
思い出せない……が、その冷たさに慣れてしまい、それもまた『温かい』のだと誤認してしまっていた事は、確かだった。
本当は温かみを、知らず知らずの内に欲していたのに。
今世でも最悪だった。
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