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少女の黒歴史を乱すは人外(ブルーチェ)
第二十五話:対決・紅の姫騎士(下)
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 その言葉を聞いた途端だった。

 ―――ロザリンドへ抱く悔しさ以外の、別の感情が俺の中に湧き上がって来た。
 今まで他人へはさして抱く筈も無かったその感情が、滾々と俺の中に生まれ続ける。


「何、案ずることはない。ボクが代わりに妹君を守って見せよう。他の連中が悪事を働くというのならば討ちもしよう。この最強たるボクがね……だから殺戮の天使の上からどきたまえ」
「……斬る気か?」
「無論」


 俺は反論しようとするも声が出ない。
 膨れ上がってくる“感情”で自然と歯を食いしばってしまい、全く声が出せない。


「討伐される事も、別段案じなくていい。他の幽霊達と違い彼女は死神、その肉体も仮初の物。故に此処で断ち切ろうとも元の死神に戻るだけさ。酷い事は何もない」
「何だと!?」


 今度は声が出る。
 激しくたぎる感情―――他人へ向けた、他人の為の “感情” を大量に含み、叫びが飛び出た。

 損得勘定だけで言うのならば、マリスを見捨てた方がそりゃあ良いだろう。
 最弱設定且つ【俺嫁力】も活かせない今の彼女を置いておくよりは、ロザリンドを護衛とし闘った方がよほど合理的だ。
 だが……これはそんな単純な理屈じゃあねえ。

 酷くないだと?
 食事の美味しさを何よりも好ましく思ったマリスが、人の温かみをこの上なく喜んだマリスが、それに触れられなくなる事が “酷くない” だと……!?

 意図せず強い思いが籠もる俺の声、その音量にロザリンドは僅かにたじろいたが、されどそれ以上動じる事も無く剣を構え続ける。


「これも大義の為、正義の為だ。諦めたまえ」


 決してどくものかとロザリンドを睨みつけ続けて居た。

 ……その時。


「……麟斗、剣姫に従った方が良い」


 俺の下から、マリスのそんなつぶやきが聞こえた。
 その有り得ない言葉に、一瞬自分の耳を疑う。

 だがそれも束の間……瞬時に理解出来てしまう。
 叫ぶのを済んで出堪え、俺は勤めて声音を押さえて言葉を紡ぐ。


「馬鹿言うんじゃあねえ……お前には逃げた連中を、成仏させる役目があるだろうが」
「……力は及ばない、作戦は無い、【俺嫁力】も元から使えない……この状況で私が助かる確率は、0。だから、大人しく従った方が良い」


 マリスはとぼけた所がある。だが、決して馬鹿じゃあ無い。
 恐らく彼女もまた、ロザリンドの提案が合理的だと分かっているからこそ、淡々とそう告げて来た。


「……今まで、協力してくれてありがとう。短い間だった、でも……とても、とても楽しかった」
「……!」


 マリスはそう言い―――笑って見せる。
 鬼瓦でなければ頬を引っ張られて作られたものでもない
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