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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第142話 九鴉九殺
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る聖句。後の広寒宮の主となる西王母の三番目の娘に教えた弓の技。
 その瞬間、濃い闇に覆われた夜天を現界まで昇り詰めた銀の矢が――

 一瞬の滞空。それまで聞こえていた鈴の音も途絶え、轟々と吹き荒れていた熱風も、飽きる事もなく体当たりを繰り返していた翼ある赤き蛇、砦の周囲を埋め尽くさんとした蛇たちの動きすら止まる。
 しかし!

 しかし、次の刹那、それは猛烈な光の豪雨となって、すべての悪しきモノの上に降り注ぎ始めた!
 次々と連なる幻の鈴の音が虚無に支配されつつあった世界に響く。ひとつが闇に溶け、ひとつが虚無に呑み込まれて儚く消える。しかし、ひとつが溶ける度に。ひとつが呑み込まれる前に次の音が後を引き継ぐ。
 先へ、先へ、先へ。幾つも、幾つも、幾つも。

 そして、

「天津神、国津神、八百万神等共に聞こし召せと申す」

 天井より降り注ぐ光の矢。そして、何処からか響く退魔の鈴の音が、弓月さんの発する祝詞及び彼女の身に付けた鈴の音と響き合い、波紋をぶつけ、その瞬間、融合を果たした!
 飛来する光の矢がアラハバキの首を貫き、氷空の八割までを占める翼ある赤き蛇、そして、地を埋め尽くす赤い絨毯と化した蛇たちを浄化して行く。
 大地がのたうち、表皮がめくれあがりながら、絶叫を放つアラハバキの首たち。それはまるで断末魔の叫び!

 光の奔流の中、九つの首の輪郭が弾ける。しかし、先ほどまでは瞬時に回復を開始した特殊能力も、今は呪力の増大すら感知する事はない。
 膨大過ぎる光の豪雨は、其処に存在する何もかもを浄化せずには置かぬ、……と言うかのように事象のすべて貫き、荒れ狂い、押し流し――
 良し、一時的の可能性が高いとは言え、大祓いの祝詞は見事に邪を祓い、アラハバキの本体の潜む魔界と、現実界の絆を断ち切った。

 そう感じた刹那。血が沸き立つような感覚に囚われ、意識を上空へと向ける。
 その時、夜空を俺が放った九鴉九殺の放つ蒼光に勝るとも劣らない光――赤光が発生したのだった。


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