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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第142話 九鴉九殺
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 刹那、左手の中に再現される懐かしい感触。今よりもずっとずっと古い時代。おそらく、この世界とは違う世界で俺が手にしていた武器の再現。
 パッと見だけならば取り立てて珍しい造りではない。一木から削り出した芯材を内竹と外竹で挟んで合わせ木にした形。所謂、三枚打弓と呼ばれる造り。
 長さ七尺三寸。伸びやかな木目の美しい一張りの弓。記憶の奥底にのみ存在している神弓の具現化。

 ゆっくりと弓を打ち起こして行く。
 精神は安定。明鏡止水の境地と言っても過言ではない状態。暴走寸前の龍気を制御し、俺の精神をも安定させる有希の存在は非常に大きい。
 但し、更に一段回ギアを上げた事により、周囲を飛び交う小さき精霊たちが活性化。強く帯びた俺の龍気に相応しい、蒼く強い精霊光の尾を引く。
 ……いや、それは既に光の尾に非ず。それ自体が無数の神代文字に因り構成された魔術回路。
 周囲を一回転する度に。そして、次々と新たに創り出される度に高まって行く霊圧。

 その時……。
 その時、酷く希薄な何か。平坦で、希薄で、淡泊で、曖昧な何かが心に触れた。
 それは……。それは非常に大きな、しかし、酷く希薄な意識。但し、俺に取っては馴染みの深い、何時も共にある気配。
 一瞬、頬にのみ浮かぶ類の笑みを発する俺。これで更に、段階をひとつ上げられる。

 そう考えた一瞬の後、驚きに近い感覚を弓月さんが発した。但し、それは本当に微かな驚き。普段なら、絶対に気付く事の出来ない小さな違和感。
 しかし、それも問題はない。何故ならば、その原因は分かっているから。これは、俺の心に触れた希薄な意識の具現化を彼女が察知した、と言う事。
 そして今一人の彼女……神代万結が予定通りに行動してくれたと言う事。

 そう、その瞬間、ぽつん、と小さく灯る光が生まれた。
 蒼白く灯る光。それは、俺の周囲を包む精霊光に似た、しかし、とても小さな光。
 蒼白い、しかし、一切の熱を感じさせない光はゆらゆらとまるで漂うように、霊的な砦を護る不可視の天蓋や壁すらも遮る事なく広がって――

 ――いや、違う。それはひとつでは納まらなかった。
 ひとつひとつは蛍の輝きに等しい小さな光。但し、それが春を待つ桜から、冬枯れの芝から、城山を覆う木々から滲み出るように……。まるで、冬の夜、小さく吐き出される吐息のように次々と現われて来る。
 後から、後から。幾つも、幾つも。
 何百、何千と言う小さな光が集まり、それぞれを有機的に絡ませ、数万、数億の意味のある形……魔術回路を創り上げて行く。
 直線と曲線。幾何学的とも言えるソレは、一見すると不規則な図としか見えない代物。しかし、その線の一本一本がまるで生あるモノの如く蠢き、それぞれが独立し、虚空へ向かってその領域をどんどんと拡大して行
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