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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第142話 九鴉九殺
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ない言葉。
 この世界に流されて来てからは初めて。しかし、俺としては何度も聞いた事のある彼女の誓いの言葉。
 自らの意志で、自らが定めた敵と戦おうとする。……いや、少し違うな。彼女は戦いたい訳ではない。ただ、守りたいだけ。其処にはかつて、自らの造物主の命令に善悪の判断すらなく、唯々諾々として従い続けていた人形の如き彼女は存在していなかった。

 振り返った俺の腕の中に、ゆっくりと倒れ込んで来る有希の身体。それを力強く。しかし、優しく受け止める俺。
 この時、もしも俺に匹敵する見鬼の才に恵まれた術者ならば見る事が出来たかも知れない。俺に寄り添うように佇む少女(有希)星幽体(アストラル体)の姿を。

 そしてその瞬間、漏れ出し、周囲を流星の如く流れ続けていた龍気にその瞬間、明確な意志の閃きが走る。
 同時に、僅かに続いていた吐き気がようやく治まった。

 高まる霊圧。身体中が沸騰したかのように熱い。但し、当然のようにこれは不快な感覚などではない。意識が普段以上に澄み渡り、認識力が無限に広がって行くかのよう。
 荒々しいまでの万能感。俺一人ならば、絶対に抑え切る事の出来ない破壊衝動を伴う、暴走と隣り合わせの危険な感情。

 しかし、そんな危険な感情すらも彼女の存在が制御してくれる。分割した思考で唱え続けている火界呪や大祓いの祝詞も当然継続中。

 抱き上げた有希の身体を、そっと桜の木の根元にもたれさせる俺。その時、俺に対して差し出して来た弓月さんの手は、小さく首を横に振ってやんわりと断った。
 ……別に有希を誰にも触れさせたくなかった訳ではない。まして、弓月さんに預ける方が現状でならば正しい判断だと思う。
 しかし――
 瞳を閉じ、僅かに俯いた彼女から感じるのは安らぎ。
 そう、この時の彼女には、何故か僅かなほほ笑みを湛えているかのように感じられたのだ。良く言えば冷静な……。悪く言うと意識の希薄な彼女が発する安らぎの気配。そんな彼女を、自らの腕の中に少しでも長く納めて置きたかっただけ。

 一瞬の停滞。しかし、その直ぐ後に膝を突いた状態から、ふらつく事もなく立ち上がる。本当は、少し顔に掛かった有希のクセのある髪の毛を整えてから、……とも考えたのですが、後ろから弓月さんの視線を強く感じながらの現状では流石に……。

「武神さん、視力は回復したのですか?」

 振り返った俺の顔を覗き込むようにしながら、問い掛けて来る弓月さん。彼女が示して来た能力から考えると、見えているかは定かではないが、俺と共にいる有希の気配(アストラル体)には気付いているはず。

「いや、未だ無理やな」

 瞳は相変わらず閉じたまま、小さく首を横に振る俺。どうやら、この視力の低下の原因は、科学的な原因――。例えば放射線などが原因とな
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