第1話 広島県
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歩いていた。
小学生の頃はとても大きく見えた田圃や建物が小さく見えて。『面積狭めたんじゃないのか?」と錯視してしまう。五年前の記憶を頼りにコンビニを目指す。
さっきは変わってしまったと思っていた庄原市。
だけど、ソレはほんの一部らしい。数百メートル離れただけで見覚えのある田園がある。
相変わらずの田園風景だった。灰色の砂利に、刈り株だけの田圃、空は雲を散らしている。
春独特の生温かい風が、桜のにおいを含んで彷徨う。
新たな食物を植えているおじいちゃんやおばあちゃんらと目が合い、軽く会釈をしながら携帯を開く。やはり田舎だからか、電波もあまり強く繋がっていない為サイトに接続するのに時間がかかる。
丁度曲がり角を曲がった時、トラクターに乗った麦わら帽子と咥え煙草のおじちゃんが俺とすれ違いざまに
「あんちゃんここいらでは見かけない顔じゃの〜」
「え?あ、今日からここで一人暮らしする者です」
「おお〜若いのにいいのぉ〜!頑張るんじゃぞ!!」
昔からここらのじじばばはとてもフレンドリーだ。今話しかけてきたおじさんは多分俺に羊羹だとか煎餅などのお菓子をよく食べさせてくれたおじさんだ。もう五年前の記憶だし、おじさんも年をとって皺が増えたような気がするけど。
独特の声やしゃべり方で判断できたあたり、まだここのことは覚えているみたいだ。
......もっとも、おじさんのほうは俺のことを覚えてないみたいだけど。
少しばかりの悲しさを胸に抱きつつ右足を前に踏み出す。
「おーハルちゃん!!」
「あ....おっちゃん」
「こんにちはー!」
さっきのおじさんが今度は誰かの名前を後ろで呼んでいる。
確か.....ハルとか呼んでたよな。
と、僅かに自転車を漕ぐ音と砂利道を進むと反動を受けて勝手に鳴るベルの音、そしておじさん以外の若い男女の声が一つずつ。
特に若い男の声に妙な懐かしさを感じ、無意識にくるりと向き直る。
────完全に手入れされていない短い茶髪。
────地味な真っ黒プルパーカーに白のスキニーパンツ
────馴染みすぎた方言を行使する低い声
「どえらいべっぴんさん連れとるなァ。愛車でデートか?」
「そんなんじゃねーよ!!」
男は冷やかされて思わず照れ隠しにそう叫んでいる。
いや、冷やかされて当たり前のような気もする。自転車は一台。その上に男が運転し、長髪の女の子はその後ろの鉄製の荷物置きのところに両足そろえて座っている。
....いわゆる、”二ケツ”というカップルでよくやりそう
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