第1話 広島県
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家に挟まれた青い瓦屋根の彼の家は、誰も使わないのになぜかうちの棚にずっと置かれている、古い手動の鉛筆削り器に似ていた。
その鉛筆削り器に似ている
「ふ〜ん......なんつーか、昔の庄原市の景色とはえらい違いだなぁ...」
拍子抜けだ。いくら月日が過ぎてしまったとはいえ、この思い出の土地が消えてしまっているような気がしていい思いはしない。
───ここを離れてから5年
早いようで短い5年間という年月は俺の中の庄原市との食い違いを起こし、消化不良のようなもやもや蟠りを残していった。
たかが5年。されど5年。
新しい家のドアに鍵を差し込み、普段となんら変化ない引き戸を開ける。
扉を引いて一歩入り、近くの電源をオンにすると、甘酸っぱい空気が漂い、リビングや階段、洗面所などに繋がる長い廊下は薄暗い照明だが、人の気配が一切無いせいか異様なくらいひんやりとしている。いくら築数年の家とはいえ、この肌寒さは少々刺さる。
場所を把握しきれていない俺は靴を適当に脱ぎ捨て、勘を頼りにリビングへ足を運ぶ。
まだ満足な家具も揃っていないがらんとしたリビング。その隣は余計なものの何も無いさっぱりとした居間。そこに人の寝ることのない広い畳は、午後でありながらも日光を浴びてない冷気のなかに、はねつけるような肌ざわりをしていた。
家の中に木の香りを含んだ闇がひっそりと住みつく。
ここが、今日から俺の住む小さな一軒家となる。
特に意味もなく俺は暗い穴のような天井を見上げる。
シミや煙草などのヤニ一つない綺麗すぎる室内は、まるで病室のように清潔だ。
「.......家具はいつ届くんだったかな」
ふと思い出したのでスマホの緑の連絡アプリを開いて両親との過去の履歴を遡る。
.....どうやら今週末になるらしい。
それまではこのただっぴろい静かなリビングのまま、ということだ。
別に静かなところが嫌いというわけではない。どちらかというと好きなほうだ。
だけど妙に殺風景なこの部屋で四六時中過ごすというのは気が引けるだけだ。
今度は渡り廊下に戻って二階へ続く階段へ。
小さな部屋が一つに小さな物置部屋。一人暮らしにしては大き過ぎる物件なのだが、ここら一帯は殆ど空き家はなく、家賃もまぁまぁなので文句は言えない。
....不満要素が無いので文句を言う必要性も感じないが。
〜☆★☆〜
とりあえず粗方荷物を家に置いてきた。入学式まであと二日。明日には入学に必要なものはすべて届くので、やることを失った俺は今晩の飯を探しに畦道をてくてく
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