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不可能男の兄
第五章
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は、俺知らねーけど。でも嫌いな、どうでもいい奴相手に、仕事途中の馬車は停めねぇよ。少なくとも切れてはねぇ。娘の将来旦那に切れてるかもしれねーけど。まあ実際そういううぜぇオヤジの時点でダメで、煩わしいかもだけど。その分、子供産んだらちゃんとしてやりゃいいじゃん」

 言われ、熱くなる。
 ……くそ。父がどう思っているかはわからない。もしかしたら、私の婚姻にも興味が無いかもしれないけど。
 完全に話の流れからして、ユーキが私に全国放送で婚約宣言したようなもんだぞ……!
 


「アッレ? アッレェエエ?」
「ノブたん! 落ち着いて! 聞こえるから!」
「コニたん! 落ち着いていられるか! 臨時生徒総会がいつの間にか婚約宣言だぞ!」



「ば、馬鹿っ。誰が誰との子供とか、そんなこと今、大体、結婚なんて――」

 早過ぎる。と言いかけて止めた。
 言ったら、婚約宣言を受け止める事になるだろうし、ユーキのリップサービスの可能性もあるし。
 ああ、言い訳だ……!
 要は、恥ずかしいから私自身に言い訳している。
 ユーキは、堂々としているけど、どういうつもりだ。
 ブラフ、ではないだろう。今朝のこともあるし。
 じゃあ、本気か?
 いや、それよりも今は――。

『話を逸らさず行こうか、なあ? おい、本多・正純。既に話し合いとしては、双方の損得において決着がついていると思うが』

 ――そう、交渉はまだ続いている。
 ……私が不利な状況は変わっていない。

『本多・正純。一つ、俺を楽しませた分の提案をしよう。この件を撤回するならば、その正確な判断を認め、お前の襲名を認めよう』

 それは、と思う。右舷側の父がいる辺りはやたらうるさいが。父はどのような顔をしているだろうか。
 教皇総長は言う。
 私を聖連と極東との交渉役にしようと言う提案だ。
 最後の揺らしだ。
 武蔵と極東の人々と、私に取って得になる。
 だが――。

「ああ? なあーーに言ってんあオマエ!」

 馬鹿が、堂々と、空の表示枠(サインフレーム)を指さした。
 そう、馬鹿が動き始めたのだ。






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