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水の国の王は転生者
第三十話 アニエスの新生活
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た! もっと気合を入れろ!」

「コ、コマンド〜」

「声が小さい!」

「コマンドー!」

 ロープ渡りの最中、他の隊員はアニエスを追い抜く度に『コマンドー!』と元気付けてくれたが、今のアニエスにはそれすら苦痛だった。

 ……どれほど時間が経っただろうか。
 窓の無い室内の為、時間の感覚が分からずアニエスは、ひたすら訓練に没頭した。

「よし、今日はここまでだ」

「コ、コマンドー!」

 ド・ラ・レイ隊長は訓練の終了を告げ、アニエスは足をガクガクさせ、辛うじて立っているのがやっとだった。

「明日も同じ時間帯にまた来るがいい。では、解散」

「コマンド〜!」

 アニエスは帰ろうと、疲労で重い身体を引きずりながら出口へ向かうと後ろから、ド・ラ・レイ隊長の声がかかった。

「キミの仇討ちが成功する事を願っている。では、また明日」

 それだけ言うとド・ラ・レイ隊長は踵を返し訓練に戻っていった。

「……」

 アニエスは何も言えなかった。
 今まで、アニエスは貴族を毛嫌いしていたものの、新宮殿に出入りする貴族の殆どがアニエスに対し好意的だった。
 
「……良い貴族も居るって事か」

 アニエスが倉庫を出ると、日は西に沈み掛かっていて、セバスチャンの乗った馬車が他の者の邪魔にならないように道の端っこに寄せられていた。

「ずっと、待っていてくれたんですか?」

「いえ、私も所用がありましたので。さ、帰りましょう」

 アニエスは行きと同じように助手席に乗った。

 馬車が発車すると、途端に眠気が襲ってきて、ヘトヘトに疲れていたアニエスは抗うことが出来ず眠りへと落ちていった。

 ……

「ミス・ミラン。起きて下さい」

「ふぇ?」

 どれ位寝たのだろうか、アニエスがセバスチャンの声で目を覚ますと、馬車は新宮殿の正門前に着いていた。

「馬車を戻しに行きますので、降りて貰えますか?」

「はい、ありがとうございました」

 馬車から降りると、疲労で身体が重く感じた。

「明日も今日と同じ時間にお願いします。失礼します」

「はい」

 セバスチャンは去り、アニエスは重い身体を引きずって新宮殿内に入った。

 新宮殿内では、家人たちが右へ左へ慌しく働いていたが、いつもと違い妙な熱気に包まれていた事に気付いた。

「……何かあったか知らないけど、今は何か食べたい」

 空腹を抑えてアニエスは食堂へ向かった。

 ……食堂に到着すると、数人のメイドが話をしていて、その内容が漏れ聞こえた。

「マクシミリアン殿下の御成婚の日時が本決まりですって」

「ホント? いついつ?」

「聞いた話じゃ3ヵ月後だったけど…
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