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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第四話 初出撃
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層部がまわしてきた書類にはただ、特務艦紀伊としか書いていなかったからだ。おい、簡略化しすぎだろ。しかし、特務艦・・・・。字面からしてどう見ても特別な艦だと周囲に思わせることになるのは確実だ。そんなことを奴は絶対に望んじゃいない。案の定というか俺がその話をした瞬間に、やっぱりやめます、と寂しそうに口を閉ざした。俺はいたたまれない思いでいっぱいだった。だから鳳翔がフォローしながら奴を送り出していったときもしばらくは椅子から立ち上がることも億劫だったほどだ。奴が自信を持ち合わせていないのはたぶんここに原因があるのだろう。だが、今のところどうすることもできない。手が空いたらじっくりと考えることにしよう。
 一つ、俺は疑問に思うことがある。ここに回航してくる途上で、奴は一瞬にして敵艦隊を轟沈させている。的確な艦載機の爆撃と主砲による一斉射撃だったはずだ。それは何人もの艦娘が目撃している。なのに、先日利根と筑摩が案内して回っている途上加賀と日向に絡まれた紀伊は散々な成績を残したという。なぜだ?プレッシャーに弱いのか?
 そう思ったから、なるべく穏やかな連中がそろっている第7艦隊に入れてみた。まぁ一人気の強い奴が移ってきているが、たぶん大丈夫だろう。



 紀伊は配属された第七艦隊の札が下がっている部屋の前まで来た。ここまでの足取りは重かった。不安もあったがそれ以上に先日の加賀と日向との出会いが彼女を一層憂鬱にしていた。あれ以来朝早く、そして夕方に訓練を続けているがあまり上達はしていないと彼女は感じていた。だが、熊野達に言わせるとそれでも砲撃の腕ははじめよりも上がってきているのだという。
(どうしよう・・・もし加賀さんと日向さんがいる艦隊だったら・・・・。)
そう考えただけで足がすくんでしまう。
(でも、でも・・・・いつまでもこうしているわけにはいかない・・・!!お願い・・・!!)
意を決した紀伊はドアをノックした。
「はい!どなたですか?」
穏やかな声がした。
「失礼します!本日付で第七艦隊に所属することとなりました、紀伊です!」
艦種をいまだに言えないことも紀伊にとって大きな悩みの種だった。
「どうぞ!」
紀伊はそっとドアを開けた。割と広い部屋には机がロの字型に並べられ、陽光の降り注ぐ広く大きな窓を背にして一人の艦娘が顔を上げてこちらを見ていた。紀伊が入ってくるとさっと椅子を引いて立ち上がった。その姿を見て思わず紀伊は声を上げていた。
「霧島さん?」
「霧島?あぁ・・・ごめんなさい。私は霧島じゃありません。」
陽光から背を離すと霧島と同じ服装だったが、別の艦娘だったことに紀伊は気が付いた。
「す、すみませんでした!」
思わず頬が赤くなった。
「いいんです。よく私たちは似ているといわれますから。」
艦娘はにっこりした。

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