第四話 初出撃
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朝早く、紀伊はそっとベッドから身を起こした。とたんに寒そうに寝巻の胸元を掻き合わせた。もう春だったが時折差し込むように来る朝晩の寒さは「花冷え」と俗に言われる。
(寒いけれど・・・・練習をやめるわけにはいかないもの。)
紀伊は手早く着替えるとそっと部屋を出て廊下を足音を忍ばせて歩いた。
「あら、ごきげんよう。」
とたんに後ろから声をかけられて紀伊は飛び上った。
「ひゃあっ!!」
「まぁ!そんなにびっくりなさらなくてもよろしいのに。」
振り返ると航空巡洋艦の熊野が目を大きく開いてこちらを見ていた。
「ご、ごめんなさい・・。」
「いいえ、よろしくてよ。」
熊野は穏やかな微笑を浮かべた。このおっとりしたお嬢様が戦場ではものすごい武働きをすると利根から聞いたときは紀伊には信じられなかった。最初のころは「この方戦艦?空母?どうしてこんなところにいるんですの?」という疑問の眼で見るだけだったが、紀伊の飾らず自信のなさそうな性格を知ったのか、向こうからよく話しかけてくるようになったのだ。
「どこに行かれますの?」
そう言われると、嘘をつくわけにもいかず、紀伊は練習に出るのだと答えた。
「なかなかうまくならないんですけれど、でもやめるわけにもいきませんから・・・。」
「そうですの。もしよろしければわたくしがご一緒してもよろしくてよ。」
「えっ?」
「わたくしもたまには朝体を動かさなくては、美容に差しさわりがありますもの。ね?いいでしょう?」
あまり人に見られたくはなかったが紀伊はせっかくの好意を無駄にさせたくはなかった。
「はい、ではお言葉に甘えて、お願いします!」
30分後――。二人は朝日が昇ろうとする黎明の海上に立っていた。
「こうしてみますと、とてもご立派ですのね。そんなに立派な艤装をつけていらっしゃるのですから、もっと自信をお持ちになればよろしいのに。」
熊野はまじまじと紀伊を上から下まで眺めた。
「私には何もないんです。技術も、そして自信も・・・・。艤装だけ立派でも皆さんにはかないません。とても・・・。」
ふうと熊野は息を吐いた。
「その自信をお付けになるために、あなたは毎朝毎夕練習をなさっているのでしょう?」
紀伊は胸元に手を当てた。
「どうしてそれを・・・・。」
「わたくしの眼は何でもお見通しですもの。」
熊野はくすっと笑った。
「もっともわたくしだけではありませんわ。利根さんも筑摩さんも、鈴谷さんも皆知っていることですもの。ただ・・・あなたが恥ずかしがるといけないと思って、誰も声をかけなかったのですわ。」
「そうだったんですか・・・・。」
紀伊は熊野をはじめ航空巡洋艦娘たちの心遣いに胸を打たれた。
「でも、この1週間あなたの練習ぶりを見ていてわたくしたちもお手伝いしたいと思うようになりまし
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