第二部
狩るということ
にじゅういち
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めの序曲である』と、なにかで聞いたことがある。もしかしたら内外どちらからか、この国はそういった状況に陥る寸前なのかもしれない。
流石に飛躍しすぎかと、私は誰にも気付かれることなく頭を振ってその考えを消す。
「何故、お前の様な者がその女に肩入れするのかは知らぬが、まあいい」
震える腕を伸ばして、ロングソードを私へと突きつける。
「……エリステイン・フラウ・リンドルム」
どうやらその切っ先は私にではなく、私が抱えている鈍器、もといエリステインに向けられていたようだ。
「私を散々袖にしていたが、“こちら側”へ付いていた方が貴様の今後のためであったな。もしくは、この場で大人しく死んでおけば良かったと、何れ後悔することになるだろう」
この男、エリステインに無下に扱われていたことには気付いていたようだ。しかし、言っていることは少々格好悪いと思うのだが、その辺はどうなのだろうか……。
「精々、そのバケモノにでも守護してもらうのだな!」
そう吐き捨てた目の前の男は、懐から高価そうな装飾の施された瓶を取り出し、一息に煽る。
私はその内容物に目を見開き、瞠目する。
その一瞬の硬直が致命的な間を生んでしまった結末。
男は口から血と唾液とを混ぜ合わせた泡吹き、途端にその流動物が通った体内から煙を上げて溶け落ちていく。
白と赤。
グズグズとものの数秒で崩れ落ちていくその有り様に、人としての体を保っていたモノは既にその場に存在しなかった。
脇に抱えていたエリステインが目に涙をため、嗚咽を漏らしているのにさえ気付かないほどに私は動揺し、その一部始終に釘付けになってしまっており、更に腕の力が抜ける。
「……なんで、なんで」
地面に蹲り、視界からそれを消したエリステインが苦しそうに漏らす。
私は大声で呪詛を吐き出したいのを堪え、ヘルメットの索敵機能をフル稼働させて油断なく辺りを見回す。
端から見れば、忙しなく頭を動かす大柄の化け物と、蹲る1人の少女という、悪魔的な一幕にも思えるその情景。
そんな景色が、数分続いていた。
〜第二部 二章 狩るということ〜 完
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