第二部
狩るということ
にじゅういち
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
騎士は呻き声を上げながらも、必死に立ち上がろうと震える四肢に力を入れた途端、吐瀉物を撒き散らした。
ナイスファイト!と、心の中で賛辞を送る私の目の前で、平騎士は意識を手放し、尻を持ち上げた何とも滑稽な姿勢で地に平伏す。
うわっ、ばっちぃ……。
かなり加減をした押し込んだだけの蹴りではあるが、べっこりとプレートメイルが凹んでいるのを認め、その脆さと力加減の面倒さに辟易とする。
「うぅ〜……。降ろしてくださいぃぃ……」
ちょっと鈍器は黙ってようか。
いまだ私の左脇に抱えられたままのエリステイン。その涙まじりの訴えを無視して、私は総隊長へと視線を向ける。
既に後方へと跳躍して間合いを取り、口元を拭いながら私を睨み付けていた。
「このっ、バケモノが!」
残念、流れているのは貴様の鼻血だ。
いくら口元を拭ったところで、次々と流れてくるぞ。
私はエリステインを抱え直し、その持ち上がった反動で彼女が小さく悲鳴を漏らす。
「……自覚が足りない」
私は彼女へ視線を落とし、囁く。
それに対して、キョトンとした目を向けたまま、「へっ?」と疑問を漏らす彼女。
私は内心で溜息をつき、何と問いたげなエリステインから視線を切った。
理解していない。
全く理解していない。
残念だ。
「鈍器としての、自覚が足りない」
「ありませんよそんなのっ!!」
なんという言い草だろうか。
そんな心ない言葉に、私の心は深く傷つき、深海の底へと沈んでいくような悲しみを覚える。
「何をお喋りしている!」
ごもっともです。
「では聞くが、彼女の命を狙った理由はなんだ?」
「簡単に口を割ると思うか?」
酷薄な笑みを浮かべ、総隊長は宣う。が、腕で拭った鼻血の跡が滑稽すぎて、正直自分で聞いておいて何だが、どうでも良く思ってしまった。
それに、目の前の男に対して、私は特に何も攻勢に出ていないのにも関わらず、肩で息をしている様子を認め、身体強化の反動が出てしまっていることを理解した。
このまま続けていても何の進展もないであろう。あとは、拷問にでも掛けさえすれば大人しく吐くか。
私は吐瀉物にまみれて気を失っている男に視線を向ける。
「残念だが、そいつは何も知らぬぞ。私から出る甘い蜜に群がっていた1人に過ぎないのでな」
そう言ってクツクツと喉を鳴らし、既に事切れている男を顎で指し示して「あいつも同類だ」と、言い放った。
どこの国もそういった側面はあるのだろうが、平和であるが故にゆっくりと、それこそ誰も気付かぬうちに腐敗していき、気付いたときには既に手遅れの状態になっていることがある。
『平和とは次の争乱のた
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ