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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十六話 疑惑
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ガー少将、司令部が指揮を執るのはわかりましたが卿が指揮を執ったのはいささか腑に落ちないのですが?」
ようやくそこに気付いたか、ミュラー。ここからまた一悶着だな。
「ヴァレンシュタイン中将が策を講じてくれた。いささか非合法な手段であったが指揮権をシュターデン中将より奪う事が出来た……。そうでなければ、シュターデン中将が指揮を執っただろう……」
沈痛な表情でメックリンガーが呟く。
ミューゼル提督の表情が歪んだ。キルヒアイス中佐も表情を曇らせている。
「ヴァレンシュタインか、またあの男か」
不愉快そうなミューゼル提督の言葉にメックリンガーが反応した。
「ミューゼル提督は今回の件にヴァレンシュタイン中将が関わっている事が不愉快ですか?」
「……そのような事は言っていない」
メックリンガーの声には冷たい響きがある、視線も冷たい。ミューゼル提督もそれを感じたようだ。メックリンガー、元帥との会談で何が有った? 無理にでも聞き出すべきだったか?
「そうですか、それならよろしいのです。今回の戦い、我々は中将のおかげで敗北することなく済みました。中将の功績は誰よりも大きいと言えるでしょう。しかし、中将は今回の指揮権奪取の件で責任を取りたいと元帥に申し出ました」
「責任?」
ミューゼル提督が問い返す。周囲も皆不思議そうな顔をしている。メックリンガーは微かに嘲笑を浮かべ言葉を続ける。いやな予感がする、責任とは何だ、一体。
「ええ、軍から追放してくれと」
「追放? 馬鹿な、何を考えている」
「メックリンガー少将、本当ですか」
ミュラー、ロイエンタール少将が問い返す。どういうことだ、ヴァレンシュタイン、何を考えている?
「本当だ。先程私が、中将から預かった書簡を元帥に渡した。それには “元帥の信頼を裏切るような今回の行為はいかなる理由があろうと許されるものではない、これを許せば軍の統制が保てなくなる” と書いてあったそうだ。元帥が教えてくれた」
「……」
会議室の中が沈黙に包まれる。ミューゼル提督もキルヒアイス中佐も声が無い。メックリンガーの憤懣に満ちた声だけが聞こえる。
「馬鹿げた話だ、中将はただこの艦隊を救いたいと思っただけなのに。その中将が処分を受けねばならないとは」
ようやく、メックリンガーの気持ちがわかった。まさかそんな事があったとは思わなかった。彼が平静な気持ちでいられなかったのも当然だ。ミューゼル提督に冷たい視線を向けたのもその所為か。しかし、本当に今回の件の責任を取る、それだけなのだろうか?
彼の言葉が私の耳に蘇る。
〜排除されるのは私のほうになりそうです〜
〜ある時期が来たら退役するつもりですが、そう遠い事ではないでしょう。私は未だ死にたくありません〜
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