百三 毋望之禍
[4/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
われ?」
館全体に響き渡る足穂の声。
紫苑はそれをどこか夢現に聞きながら、欄干から屋敷を俯瞰していた。眼下では、足穂が沼の国の祠へ巫女をお連れする護衛を募っている。
館の兵士達が挙って志願するのを視界の端に捉え、彼女は悲痛に顔を歪めた。
警護の任につきたいと本心から願う者が今この国にいるだろうか。死の予知を実際に受ければ、誰だって紫苑の傍にいた事を後悔するに違いない。
紫苑とて、本当は予知などしたくない。けれど彼女にとっては、それが己に課せられた使命であった。妖魔【魍魎】を封印出来る巫女がいなくなれば、遠からず世界は破滅する。それを防ぐ為の仕組みが予知なのである。
自らの死を察したその時、巫女の魂は肉体を離れ、過去の自分に死ぬ瞬間の映像を見せる。同時にその際、巫女の傍にいる者の姿をも視界に入る。その者は予知を聞き、己が身代わりとなって死ぬ事で巫女の死を防がねばならぬという考えに至る。
つまり巫女とは他人を犠牲にしても生き続けなければならない生き物なのだ。
何れ来たる妖魔の封印が解き放たれた時の為に。【魍魎】によって滅びゆく世界を救う為に。
そして今、その妖魔【魍魎】が蘇ったという。
本来ならば世界の危機故に諸国が一致して【魍魎】の封印及び殲滅に乗り出すべきなのだろうが、仮に封印及び殲滅出来たならばその後が厄介だ。鬼の国はとても小さな国家故、大国に攻められればあっという間に支配されるだろう。
いくら巫女の血筋を守る国とて、国の上層部は自国の保身を第一に考える。鬼の国の議会でもたらされた発言は先を見据えるなどというものだったが、実際は【魍魎】の復活を楽観視し、我が身可愛さ故である。妖魔よりも大国からの侵略を恐れているのだ。
そこで秘密裏に何処の国にも所属しない組織『暁』に紫苑の警護を依頼したのである。
紫苑とて【魍魎】を封印出来なければ、世界が滅びる事実を知っている。だが、上層部の決定には逆らえないし、どちらにせよ己が沼の国の祠に出向いて妖魔を封印しなければ、世界は終わってしまうのだ。
けれども紫苑はもう、誰も巻き込みたくなかった。巫女の運命やら役割やらから逃げ出したかった。先日、黄泉の配下たる四人衆に襲撃された際、鋭利なクナイを前に何もしなかったのも、己の死を回避する為に誰かを犠牲にしたくなかったからだ。
他人の屍の上でのうのうと生きている己にはもうほとほと嫌気が差していた。けれどもまた、生き延びてしまった。
突如介入してきた、あのナルトという少年によって。
ならばやはり己がすべき事は一つ。
紫苑は鋭く眼を眇めて、欄干から身を離した。母屋に戻り、身に纏う白の装束を脱ぎ捨てると素早く旅支度を始める。
その紫紺の瞳には決意の色が強く宿っていた。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ