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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
45.吾闘争す、故に吾在り
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ふッ!?」

 視界がブレたと錯覚するほどの瞬間速度を捉えようとした刹那、今度は脇腹を鈍器で殴りつけられたような衝撃。反射的に空気の動く気配をした方向に手刀を繰り出すと、硬度と軟度を併せ持った肉質的な何かに命中する。
 それを掴みとると、正体は千切れとんだ尻尾だった。人体には存在しないパーツである尻尾を利用して殴りつけてきたのだ。そして俺の反撃で自動的にちぎれた尻尾を囮に本体はまんまと離脱に成功している。文字通りトカゲのしっぽ切りだと思っていると、尻尾が蛇のようにうねり、俺の喉に一直線に飛来する。

「尻尾の先端だけ異様に硬い……成程、叩くだけでなく刺すことも出来るのか」

 命中する前に握力で強引に圧潰。よく見れば先端は銛のように一度刺さると外れにくい構造になっている。ある程度自立行動し、突き刺さり、残る力を振り絞って暴れまわる。ここまで来ると単なる蜥蜴の尻尾ではなく別種の魔物とさえ形容できる。

 風を切る音。瞬間移動のように残像を残して迫る蜥蜴の騎士の斬撃が再びこちらの盲点を突こうとするが、流石に俺も『目が慣れた』。先手を打つように剣に力を籠め、斧を振り下ろすように真っ向に振り抜くと、両手の武器を交差させた蜥蜴に命中した。岩を砕き周辺の空気を押し飛ばす衝撃に、蜥蜴は5Mほど後方まで吹き飛ばされた。

 目を見る。驚くほど静かな意志を湛えた目だ。理性を感じさせない粗暴な魔物のそれではなく、忠誠を誓う騎士を彷彿とさせる。だが、俺にはこいつが誰に仕え、どうやってその技能を手に入れたのかなど至極どうでもいいことだ。

 忠誠を誓う騎士は、自分の剣の向かう先を主に決めてもらう。
 つまり、自分で自分の行動を決めきれず、一方的に信頼した赤の他人に行動を委ねている。

 それは、『狗』だ。

 そして俺は『狗』ではない。

「俺は、俺の力を、俺が存在するためだけに使う。自分が自分である根拠を欠片でも他者に依拠する存在には俺を殺す事は不可能だ」

 蜥蜴が走る。人間では決してありえない脚力と俊敏性は瞬間移動のように錯覚されるほど速く、煌めいた刃はその軌道を自在に変えながら俺の身体へと迫る。俺はそれを――何もせずにぼうっと見た。
 刃が俺の腹部を貫く。突撃槍だ、今の一撃で食道器官は致命的なダメージを受けただろう。下腹部が内側からこじ開けられるような凄まじい衝撃が奔り、灼熱のように熱い血液が零れ落ちる。蜥蜴はその槍を手放しながらさらに連撃を繰り広げようとして――

 蜥蜴の剣が、きぃん、と音を立てて根元から折れる。止めを刺そうとして動きが一瞬大雑把になった瞬間に、俺の剣で叩き折ったからだ。普通なら腹を貫かれた時点で人間はまともに行動できなくなるのだろうが、俺はこの程度の傷では止まれない。
 蜥蜴が槍を引き抜こうとする。し
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