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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
45.吾闘争す、故に吾在り
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霊長類学者の間では存在する。
 最終的にこの説は不完全な説であり、人類は争う性質と助け合う性質の両面性を持っているという安直な結果が真実だということが後に判明した。

 だが人類の作りだした文明や文化というのは厄介なもので、文化の多様性を認めるが故に別の文化形態で過ごす存在を「同族」と認め切れないことも多い。それが普通なら同種持つはずの道徳意識を薄め、敵と同類の境を極めて曖昧なものにしていく。故に人は争う、と学者は言う。

 肥溜めの蛆虫にも劣る下らない理論だ。
 理論は生きていない。しかし蛆虫は生きている。生きるのに必死になりながら汚らしい糞尿の海で蠢き続ける。醜く汚らわしい物だとしても、そこには生存というたった一つの目的に邁進する生物の輝きがある。つまり、理論や説などというのは現在を生きる全ての生物にとっては何の価値もない、文字通り机上の存在でしかない。

 俺は、人間だから戦っているのか。……違う。
 俺は、―――の子だからから戦うのか。……違う。
 俺は、―――に捨てられたから戦うのか。……それも違う。

 俺が、俺という存在であり続けるために、俺は戦うのだ。

「お前は何のために戦う」

 その問いに対して返ってきたのは、惚れ惚れするほどに狙い済まされた斬撃。敵は手首を器用に操って剣の軌道を変化させ、弾こうとしたが一瞬捉え損ねる。直後、時間差でもう一撃。ボッ、と頭の真横の空間を破滅的な威力が通り抜ける。槍だ。突撃槍が俺の顔面を抉ろうとした。

 顔面への攻撃で視界を奪い、それを回避することで発生した隙を縫って敵は跳ねるように離脱。再び間合いを取った。待つときはまるで石像のように微動だにせず、しかし突然何の前触れもなくトップスピードでこちらを錯乱する。

「………ギギギッ、キキッ!」
「唯の魔物にしては出来るが……成程、人語を解さないのなら『異端児』ではないな」

 トリッキーかつ繊細、突発的ながら技巧派。まるで熟練の冒険者を相手にしているようだが、実際には真逆だ。メタリックグリーンの鱗に全身を覆われた亜人の黄色い瞳が、俺という獲物を捉えて離さない。
 蜥蜴の獣人とでも形容すべき姿をした魔物は、舌をちろちろと動かしながら両手の武器で巧みに攻撃してくる。驚くべきことに眼球の僅かな隙である『盲点』の位置まで完全に把握した不意打ちまで撃ってくる。これほどの剣術、人間でさえも習得するには年単位の修行が必要だろう。

 決してこちらに付け入る隙を見せようとしない。破格の速度もさることながら、ココと同じで圧倒的な先読み能力を駆使しているために思うように主導権を握れない。刃を強引に叩き込むと片手の剣でいなされ、その隙にもう片方の手に握られた突撃槍がこちらの胴体を掠める。

「キキキキッ!!」
「面倒な――が
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