幻の特務艦紀伊。
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真っ白い雲が青空を飾る下、降り注ぐ眩しすぎる陽光がキラキラと反射して光っている。こういう光景は穏やかな波でないとみることができない。波がそれほど高くはないのは、この埠頭を含めたこの呉鎮守府がまだ内海に位置しているためだ。
工廠、司令部、ドックやそれを防護する対空砲陣地や掩体壕などが整然と並んでいるところは、まさしくここが一大要港であることを示していた。その一角の埠頭に立って瀬戸内海の島々を眺めている一人の艦娘がいた。その後ろから静かに歩み寄ってきた艦娘がいる。
「何をしているの?加賀さん。」
穏やかな声に加賀は振り向いた。数々の戦いを経験し、鋼鉄のごとく動じない瞳。
「赤城さん。」
長い髪を心地よさそうに波風になびかせながら、赤城は加賀の隣に立った。
「いい天気ですね。こんな天気を見ると深海棲艦が潜んでいることすら忘れてしまいそう。」
「・・・・・・・。」
「ここにきているということは、あなたも興味があるの?今日着任する新型艦に。」
「別に。」
加賀は乾いた声で答えた。
「私はとても興味があります。聞いた話では今までのどの艦娘とも違う・・・まったく新しい人なんですって。」
「そう。」
「仲良くできるといいのだけれど。」
「ここでは私たちが先任です。栄光の第一航空戦隊・・・いえ、戦時になれば第一航空艦隊の中核すらをも担う私たちが新型艦とはいえ一介の新人に気を使う必要などないわ。」
「栄光の一航戦・・・・ですか。」
赤城は急に寂しそうな目になった。
「確かに、前世の私たちはそうでした。当時全世界に先駆けた機動部隊、精鋭中の精鋭。無敵艦隊・・・そう呼ばれさえしました。でも、加賀さん。」
赤城は加賀を見た。
「それでも私たちは負けてしまった。いいえ、おっしゃりたいことはわかっています。もう何回も何回も苦しいくらいに見続けたあの悪夢を、再び繰り返すまいと・・・・私たちが猛訓練を続けてきたことを。でも、本当にそれだけでよかったのかしら?」
「・・・・・・・・。」
加賀は視線を赤城の手に落とした。そこには数えきれないほどの無数の傷があった。
「私は艦娘として生まれ変わって以来ずっとそのことを考えてきたわ。でも、まだ答えは見つからない。見つからない限り、どんなに訓練を続けても、どんなに深海棲艦に勝利しても、きっといつかは――。」
「赤城さん。」
加賀が遮った。低く平板ながら有無を言わせぬ調子が込められていた。
「ごめんなさい、加賀さん。」
赤城は一瞬俯いたが、再び顔を上げた時微笑んでいた。
「でも、今日提督から新型艦娘が到着すると聞いて、なぜか気分が少し晴れました。もしかすると、まだ会いもしていないのだけれど、その方が私たちをあの悪夢から救い出してくれるのではないかと、そんな気がしているのです。」
「赤城さん。」
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