2
[8/8]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
程度の大きさまで小型化することに成功した。中々大変な作業だったよ。抽出される脳波と音波のやり取りはかなり複雑で……。……話が大分逸れてしまったね。元に戻そう」
――音波反響式のVRインタフェースを頭部大にまで小型化だと!?
後半は愚痴のような形になった湊のセリフを、俺は硬直の解けないまま聞き、立ち尽くした。
背筋に戦慄よりも先に驚愕が走る。《音波反響式》とは、言わば耳から脳に直接交渉するシステムだ。脳波が感覚器官、運動器官へ到達する前に機械でジャックし、逆に脳へは音波によって触覚、視覚などの感覚を与える。これによって使用者は全く動かずに(というより動けずに)機械の中、仮想の空間で活動する事ができる。それが定義だ。即ち、機械の中で行う事が大前提であり、それ以外での活動はどれだけIC機器をコンパクト化したとしても不可能、というのが常識だった。医療用にのみ使われてきたのは、十分な場所を確保でき、加えて脳への負担もゼロとされているからだ。俺も市販用のICチップのサイズをどうにかして縮めようと努力したのだが、やはりほとんど成果は表れず、結局俺の部屋の間取りを侵食したままである。
そんな大それた考えが、多少苦労したとはいえ実現してしまっていいのか、と内心首を傾げる俺の心情には全く気付かず、湊の説明は続く。愚痴を聞いてもらった(正確にはその場から動けなかっただけだが)お礼のつもりか、少し柔らかになった口調で話しだす。
「君たちの行動は、現実世界の身体になんの影響も及ぼさない。ここで飛んだり跳ねたり、または損傷しても、向こうの君たちには何の変化もないために安心してほしい。この技術の開発成功から得た利益によって、我々は《リクター》を買収することが可能になった。それでようやく君たちをここに呼び出せた、というわけだ」
それなら合点がいく。医療面のみから見ても、莫大な収益を上げる事ができただろう。さらに他の企業にも無視できない程の魅力がある。だがなぜ俺達は連れて来られたのか、という疑問が残っている。まだまだ謎解きは終わらない。
と、ずっと闇に阻まれ見えなかったフードの奥に、小さく、しかしはっきりと藤色の光が瞬いた。コンマ1秒にも満たない短い時間だったが、俺は全てを理解した、そんな気がした。
――この男は、湊静夜と名乗った《フォーレイズ》の開発長は、《狂症》なのだ。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ