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る。ガラスのような表面のそれは、一部の光を反射していかにも困ったような表情を浮かべる顔を映し出す。
「なっ……」
声を漏らさずには居られなかった。そこに存在するのは、微妙な表情の変化や瞬きの頻度からして確実に俺の顔なのだが、毎度見慣れた俺の顔ではなく、見ず知らずの人間の顔だった。
――いや、見覚えがある。
俺の脳にとある記憶がサインを示す。閃きが俺の思考回路をその情報目掛けて稲妻のような速度で駆け抜けて行く。処理速度限界近くまで加速した俺の思考は、一つの確かな情報を見つけ出す。
「マイキャラ……」
このゲームにログインする前、30秒近くで作り上げた俺のアバター。即ち、元々このキャラクターでゲームを進める筈だった人物。
若干長めの黒髪、肌色の長円の顔、丸い漆黒の瞳、それを囲む形のいい目。現実世界の俺と比べると、恥ずかしい程に格好いい。もし朝起きてこの顔になっていたのなら、逆に外になど一歩も出られないだろう。
再び白衣の男の指がウィンドウを走る。それはまるで早回しのビデオを見ているかの如きスピードで、目が追い着かない。
と、不意に視界がぐにゃりと歪む。視界の中央を中心に渦が巻き込む感じだ。数秒続いたその現象が終わると、先程と何も変わらない世界が現れた。
――いや、違う。絶対なる矛盾がここに存在する。凄まじい違和感が額を貫く。目の前に開いたままのウィンドウを覗き込む。あった。確かな違い、違和感の正体が。
現象前の面影がどこにも無い、しかしどこか決意を示したような顔立ちがそこにある。輪郭は変わらないが、同色のぱっちりと開いた両目、キュッと引き締められた凛々しい口元、決して高くはないが型のいい鼻、ほっそりとした手足や指、白く滑らかな肌。中でも目を引くのが微風を受けてそよそよと泳ぐ、背中あたりまで伸びた艶めく黒髪。
今まで見飽きたこの体に戻って来られた事が何故か無性にほっとする。幾度となくからかわれ、見る度にげんなりとしたこの女性っぽい姿を、いつの間にかこの短時間で欲するようになっていた自分に驚く。
周りを見渡してみると、やはり誰も彼もが元とは違う恰好をしている。身長が著しく増大した者もいれば、男女が覆った者もいる。そこで俺は、今も隣に立っているはずの、しかし多少の程度はあれ姿が変わっているであろうかなりの冷静さんを仰ぐべく、左を向く。ちょうど相手もこちらに振り向いたらしく、ほんの少し髪が揺れている。
「は!?」「あ?」
同時に程度と音量は違うながらも叫ぶ。俺の目の前には、対話した時と全く寸分の違いもない、この世界初の話し相手、ゼロが立っていた。
背は俺より少し低いが背骨をかなり曲げ、ポケットに手を突っ込んでいる上に、漫画のような三日月形の眼とその奥の猫科を思わせるやけに小さな瞳が年下という印象を思いっきり看破し
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