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第一章
悪意の風
その国は独裁国家だった。まさにそうした国家だった。
独裁者は傲慢だった。かつ野心家だった。
常に豊かな隣国を狙っていた。だがその隣国を攻め取るには軍事力が足りなかった。このことはどうしようもなかった。それでだ。
常にだ。こう言っていた。
「手段は選ばん」
「何としてもですね」
「あの国をですね」
「そうだ。攻め取るのだ」
側近達にだ。己の野心を言っていた。その隣国は彼の国のすぐ南にあった。農作物は豊富でしかも産業も発展している。人口も多いというまるで肥え太った牛の様だ。
それに対して彼の国は痩せた狼だ。土地は痩せ産業も少ない。しかも人口も少ない。こうした有様では豊かな隣国が羨ましくなるのも当然だった。
それでだ。彼は言うのだった。
「絶対にだ」
「そうですね。しかしです」
「我が国の軍事力ではあの国は攻め取れません」
「残念ですがそこまでの力はです」
「とても。あの国は」
「併合すらも」
「そうだな。できたものではない」
独裁者とて愚かではない。むしろ愚かでは独裁者になぞなれない。何処かの大国に英雄を騙って放り込まれるか世襲でもない限り愚かな独裁者なぞ誕生しない。彼は少なくとも賢明な独裁者だった。独裁者らしく軍の将軍の立場からクーデターを起こして政権の座に就いている。
だからだ。彼はこう言うのだった。
「今の国力ではとてもな」
「はい、軍事力も足りません」
「あの国は人口が多いだけに兵も多いです」
「しかもその装備は良質です」
産業が発達しているうえにだ。軍の装備もよかったのだ。
「彼等には何でもあります」
「我々とは全く違います」
「忌々しいがな。しかしだ」
だがそれでもだとだ。独裁者は言うのだった。
「何としてもあの国は手に入れる」
「そして我が国は豊かになる」
「そうなるのですね」
「絶対にだ。なるぞ」
無論彼が豊かな国の指導者になる野心もあった。だがそれと共にだ。
彼は自国を豊かにするつもりだった。野心家だが国民のことも考えていたのだ。
だからこそだ。彼は隣国を狙っていたのだ。何としてもだ。
だがそれでもだ。彼の国は国力が足りなかった。隣国を征服するには。
それでだ。彼は言うのだった。
「軍事力で駄目ならばだ」
「別の手、ですか」
「それを使いますか」
「出来るだけあの国の豊かな土地を荒廃させない」
様々な農作物が豊かに採れるその土地を害しては何にもならないというのだ。
「そして産業もだ」
「はい、それもですね」
「害してはなりませんね」
「産業は育てにくく壊しやすい」
独裁者は深い目になって述べた。
「だからあの国の産業もだ」
「決し
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