第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
壊れかけの黒:隠者の矜持
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は済まなくなる。
「本当に、君には感謝してもしきれないよ」
「あっはは〜、そんなに喜んでくれたらぁ、私も頑張った甲斐がありますよぉ〜………っと、もうそろそろですよねぇ〜、センパイ達がお仕事の現場に入るのってぇ。わたしはご遠慮しますけどぉ、鑑賞されるんでしたらぁ、早く向かわれた方がいいですよぉ?」
「そうだね………では、お暇しようか。これはお代にでも使ってくれ」
言って、グリムロックはカウンターに金貨を置いては足早に立ち去ってゆく。
その後ろ姿に手を振りつつ、ピニオラは一仕事遣り遂げたかのように深く息をついて背筋を伸ばした。
PKの実行犯も間もなく現場に到着する。
つまり、ピニオラの言う鑑賞とは《かつての仲間が殺される光景を見届ける》ということで相違ないだろう。彼等をダシに使った手前で都合の良い話だが、とにかくキリト達にこの事を伝えて、PKを未然に防いでもらった方が賢明かもしれない。メニューウインドウからフレンド欄を開いてはスクロールする最中、俺はようやく気が付いた。
――――遮蔽物である樽越しに、嗜虐的な視線が向けられていることを。
「どちら様でしょう? お客さんが居たものですからぁ、ず〜っと無視しちゃってましたけど〜………こんなお店でかくれんぼするのってぇ、楽しいですか〜?」
背筋が粟立つような悪寒が走る。
よもや、看破されてしまった隠蔽スキルは俺を助けてはくれないだろう。しかし、ここで顔を見られると厄介だし、下手に転移結晶で逃げ遂せれば、警戒したピニオラが計画を加速させて早々にヨルコさん達を始末することも十分に考えられる。幸い、如何に索敵スキルとはいえ、遮蔽物越しにいる相手が何をしているのか、その詳細な情報をダイレクトに受け取れるものではない。あくまでも《存在する座標》や《発生させている音》などの情報から推測するしかなくなってくる。つまりは、ピニオラは俺が誰であるかを判別できていない状態にあるのだ。
故に、賭けるしかない。それ以外に、方法はない。
スクロールした先のフレンド欄に記されたプレイヤー名に触れ、手短に情報を纏めて送信する。あとは、受信先の裁量次第となってしまうが、依頼する立場である俺からは上手く行くことを期待する。
………むしろ、受信先の相手以上に適任もいないだろうが、いささか酷な申し出だ。それこそ運任せといったところか。
そして深く息を吸い、一番近くの窓を見定めて突進。
観音開きのガラス窓は破砕音を立てることなく、非破壊オブジェクト特有の圧倒的な硬度で衝撃を耐え抜き、窓本来の機能である開閉のみを忠実に実行する。結果として、俺は街路に投げ出される格好となるが、そのまま足を止めずに酒場の向かいに細く伸びた路地裏に駆け込み、
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