第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
壊れかけの黒:隠者の矜持
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!?」
思わず、息を呑む。
キリトとアスナが食べ物をついばみながら会話しつつ見下ろす酒場の前の街路を悠然と歩く長身の人影に、呼吸を忘れて釘付けになった。
つばの広い帽子に、銀縁で丸いフレームの眼鏡、裾の長い前留の衣服はどこか大陸系の雰囲気を漂わせる。柔和な顔立ちは微笑を浮かべながら、キリト達が見張っている筈の酒場のスイングドアを揺らして中に消えていったのだ。そもそも情報量の少なさが災いしたといったところか。
「………グリム、ロック」
無意識に零れたのは、ようやく見つけた相手の名。
当時と寸分違わぬ格好であったが、ただ唯一の違いといえば、最愛の妻を失い、言葉を詰まらせながら無念の涙を流していた男とは思えないほどに、大切な誰かを失ったという心痛がきれいさっぱり見受けられなくなっているということ。その微笑には、俺の警戒心を強めさせる不気味さがあった。
――――さも、再び《凶行》に走る先触れのように、彼には危いものを感じ取ってしまう。
しかし、如何に屋内という閉塞された場所に入ったとはいえ、その後どのように行動するかは未知数だ。仮に中で転移結晶など使われたならば、完全に見失う羽目になる。
既に窓から目を離して声をあげているキリトとアスナを放棄し、屋根から路地裏に飛び降りる。そして、隠蔽スキルMod《無音動作》と《視覚透過》を同時に発動し、通りに歩み出る。
大仰な名称のModではあるが、これはあくまでも保険だ。事実、聴覚と視覚での索敵に対して優位的な補正を得ている状態ではあるが、更に上手の索敵スキル保有者がいれば看破されないとも限らない。幸い、街を行き交うプレイヤーには知覚されていないらしい。俺が注意を払わなければ肩をぶつけられかねないくらいに、猪突猛進に雑踏を行き交わせている。そんな歩行者の合間を縫って、酒場目当てのプレイヤーの背後を借りつつ入店。
周囲を見渡すと、香港映画の兇手じみた長身は、壁側のカウンター席に腰をおろしていたローブ姿のプレイヤーに声を掛け、隣に座るところだった。
かなり厚手の素材で拵えたであろうローブは、しかし着用者の小柄で細く、しなやかな身体のラインを所々に浮かばせていた。女性と思しきプレイヤーの背格好には、キリトの話にて登場した《圏内PK》の実行犯の姿が重なって見え、同時にかつての記憶から妙な既視感を覚えてしまう。とりあえず、念を入れる意味で酒樽の陰に身を隠す。店内の客には知覚されていないが、それでも死角へと回り込んでおく。
「やあ、今日は早かったね」
グリムロックの妙に気さくな声を受け、ローブ姿の
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