7部分:第七章
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第七章
「だから。いて欲しいんだ」
「けれど私は」
「君じゃないと駄目だ」
スルーの言葉はここでは強くなった。
「君じゃないとね」
「私だから」
「ずっと一緒にいよう」
言葉がさらに強くなった。
「二人でね」
「有り難う・・・・・・」
エリザベスは夫の言葉を聞いて涙を落とした。それは間違いなく熱い、人だけが流すことのできる涙だった。人の心がある者が流すだ。
スルーは退院して妻との生活に戻った。そしてこの日はあの黒人の同僚夫婦を自分達の家に呼んでいた。そのうえで妻の料理を前に話に興じていた。
「いや、この料理な」
「美味しいだろ」
「ええ、滅茶苦茶美味いな」
同僚も笑顔でこう答えた。
「こんな美味いものはないな」
「そうだろ、本当にね」
「俺の女房の料理の次だな」
「おいおい、そこでのろけるのかい?」
スルーは友人の今の言葉に思わず苦笑いになった。
「そこは謙遜するところじゃないのか」
「俺は嘘は言わないからな」
同僚は笑いながら話した。
「だからな。正直にな」
「言ったのかい」
「そうさ」
まさにその通りだというのである。
「だからだよ」
「そうかい、じゃあそれならいいさ」
「許してくれるか?」
「御前が奥さんをどれだけ愛しているかわかったからな」
その彼の横にいる小柄な黒人の女性を見ての言葉だ。白い歯と黒く大きな目が実にチャーミングな女性であった。彼が惚れ込んでいるのもわかる程だ。
「だからな」
「いいんだな」
「僕だってそうだしね」
そして今度は自分のことを語るのだった。
「愛しているからね」
「全くな。俺もな」
同僚は苦笑いになった。そのうえでの言葉だった。
「こんなになるとは思わなかったな」
「こんなにって?」
「だからだよ。愛妻家にだよ」
スルーに対しての言葉であるのは言うまでもない。
「なるとは思わなかったよ」
「そうなんだ」
「そうだよ。全くな」
こう言うのだった。
「思わなかったよ。まあ幸せになれよ」
「なるよ、いや」
スルーはここで自分の横にいるエリザベスを見た。彼女は相変わらず美しい。少なくとも彼から見ればこの世界で最も美しい。
「もうなってるね」
「言うな、全く」
「幸せだよ、エリザベスがいてくれるから」
彼女のことを全てわかって。そのうえでの言葉だった。彼は幸せだった。自分をこの世で最も愛してくれている伴侶を得られて。
機械の女 完
2010・2・18
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