最終話 天下の宴その五
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「これは」
「はい、伴天連の者が連れていた料理人に作らせたものです」
「そうか、不思議な味噌をかけておるが」
「ソースというものとか」
「ふむ、それか」
「それを肉にかけてです」
その焼いたものをだ。
「味付けをしておりますが」
「胡椒や大蒜の香りもするの」
「そうしたものでも味付けをして匂いも消しています」
「成程な」
「他には熊の掌もあります」
それもというのだ。
「それと燕の巣、鮫の鰭と」
「妙な食材ばかりじゃな」
「この三つは明で食するもので」
帰蝶はさらに話した。
「明から堺に来た料理人に作らせました」
「そうなのか」
「無論本朝の料理もありますので」
「そちらもじゃな」
「召し上がられて下さい」
「ではな」
信長はそうした肉にだ、燕の巣や熊の掌、鶴にすっぽんにその他にも様々な馳走を味わった、それは他の者達も同じで。
誰もが舌鼓を打った、しかも。
酒も違った、上座におられる帝は紅い酒を夜光杯で飲まれて言われた。
「何とも美味な酒じゃ」
「それは蒲萄の酒です」
「あの漢詩にあるか」
「はい、葡萄の美酒です」
まさにそれだとだ、帰蝶は帝に微笑んで話した。
「そちらです」
「そうか、漢詩では読んだが」
「実際にはですか」
「見るのははじめてでじゃ」
そしてと言われるのだった。
「飲むのもな」
「はじめてですね」
「この様な美味い酒はなかった」
帝はこうまで言われた。
「馳走にも酒にも満足じゃ」
「いや、この様な美味な酒は」
近衛もその葡萄の酒を夜光杯と飲みつつ帝に言った。
「麿もはじめて、幾らでも飲めるでおじゃる」
「左様ですな、しかしです」
山科がその近衛に言うのだった、彼もまた蒲萄の酒を飲んでいる。
「酒ですから」
「飲み過ぎるとでおじゃるな」
「後が大変ですぞ」
「左様でおじゃるな、二日酔いで」
「それには気をつけましょうぞ」
「わかったでおじゃる」
「蘇もよいですな」
謙信は蒲萄の酒を楽しみつつそちらも口にしている。
「この酒と実に合います」
「ふむ、確かに」
「この酒は蘇と合う」
信玄と謙信も言う。
「これはまた以外な」
「どちらの味も引き立つわ」
「はい、まさにです」
謙信は飲みつつ言う。
「天下の絶品です」
「こちらもよいな」
「左様ですな」
島津四兄弟は熊の掌を味わっていた。
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