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第一章
機械の女
スラット=スルーは月に住んでいる。人類が宇宙に出て長い年月が経っている。その間に月はおろか太陽系の外にも進出していた。彼は生まれも育ちも月である。
青い目で髪は黒い顔立ちは彫があるが肌の色は黄色い。アジア系とヨーロッパ系の血が互いに見られる、そんなヘレニズム時代を思わせる男である。
彼は今恋人はいない。しかしであった。探していないわけでもない。
それで職場の同僚に声をかけた。彼の仕事はトラベル会社である。そこで事務をしているのだ。
それで声をかけるとだ。同僚はこう言ってきたのであった。
「それならいい場所を紹介するぞ」
同僚は黒人の男だ。そのまさに真っ黒い顔から白い歯を出して彼に言ってきたのである。
「いい場所をな」
「結婚相談所かい」
「ああ、御前も彼女って歳でもないだろ」
「もうすぐ三十だよ」
二十九である。本当に間近だ。
「彼女はいなくなってそうだな」
「何年だ?」
「五年だな」
その間ずっと決まった彼女がいないのだ。彼にとっては困ったことにだ。
「五年になる」
「じゃあもうここで身を固めてもいいだろ」
「それでか」
「ああ、結婚相談所を紹介してやる」
まさにそれだというのである。
「それでいいな」
「ああ、わかった」
そしてであった。彼もそれでいいというのだ。実際のところ彼にしてもそろそえお身を固めないとならない時だった。彼女どころか生涯の伴侶され欲しいと思っていたところなのだ。彼は独身主義者でも同性愛者でもない。それならば答えは一つだった。
「それじゃあな」
「よし、話は決まったな」
「それでどの相談所なんだい?」
「携帯を出してくれ」
同僚はスルーの問いにこう返してきた。
「携帯でだ」
「ああ、出したぞ」
「ラルカンシェル相談所と打つんだ」
「ラルカンシェル相談所だな」
「そこだ」
まさにそこだという。サイトの相談所だったのだ。
「そこにメールをする」
「それで終わりか?」
「実際に事務所に行ってもいいしメールで続いてやり取りをしてもいい」
「それはどっちでもいいんだな」
「好きにすればいい。そこで相手を見つけろ」
「わかった。それじゃあな」
「俺はそこで見つけた」
同僚はここでその白い歯をさらに見せてきた。明らかに笑っていた。
「今のかみさんをな」
「あれっ、御前結婚していたのか?」
「おい、それは言わなかったか?」
「だって式もまだじゃないか」
「俺は式はしない主義なんだよ」
だからだというのだ。この辺りはまさにそれぞれの考え次第であった。この時代では結婚するにあたって式を挙げない人間もいるが挙げない人間も多いのである。この同僚は前者であったのだ
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