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第九話 エル・ファシルの英雄は誕生する・・・のです???
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が。

「し、司令官いかがいたしましょうか!?」
「司令官!」
「司令官!」

 幕僚たちが詰め寄る・・・いや、縋り付かんばかりにしているが、リンチ少将が青くなって動かない。僕が言える立場じゃないけれど、あれではだめだな、司令官がこういう時にしっかりしなければ、味方はこの瞬間にも死んでいるのだから・・・。

「て、撤退だ!!エル・ファシル本星に撤退だ!!」
「しかし!!」
「た、体勢は本星に戻ってから立て直す!!急げ!!急げ!!!」


エル・ファシル本星――。
 同盟軍のうち、艦艇200隻、5万人が逃げ込んだが、帝国軍はエル・ファシル本星を増援とともに合計9000隻の艦艇で包囲した。
 エル・ファシルには民間人300万人が居住しているが、これが一斉に軍司令部や行政府、そして軍港に殺到して大混乱が起き、多数の死傷者がでた。
 そして、リンチ少将は脱出計画の責任者を、手の空いており、暇そうなヤン・ウェンリー中尉に一任したのである。彼はさっそく軍港に向かった。彼の姿を見るや、民間人たちが殺到してきた。

「君が脱出計画の責任者かね?」
「はぁ、どうもそのようですね・・・」

 それを聞くと、民間人たちは一様に不安そうな顔をして離れていった。あんな若造で大丈夫なのかというざわめきを残して。ヤンはやれやれというように頭を掻いたが、それからやるべきことはやってのけた。脱出用の民間船、護衛艦、民間人の脱出艇の搭乗その割り振りを用意したのである。それをもってリンチ少将の司令部に行くと、リンチ少将はそれを無造作にデスクの端に置いて、後は副官たちと話し合っていた。
 どうやらリンチ少将は逃亡するらしい。そう感じ取ったヤンはやはりこの計画を進めてきてよかったと思った。手は汚いが司令官を囮にするつもりだった。
 ふと、ヤンは包囲艦隊の配置状況を見た。ここ数日の艦隊の動きがデータ化されている。それを見たヤンは眉を顰め、ひそかに別の計画を立て始めていた。


 水面下での波紋が表に出てきたのは、それから3日後である。リンチ少将のシャトルが飛び立った時であった。

「我々は見捨てられたのか!?」

 一斉にうろたえる民間人にヤンはまぁまぁと手をかざして諭した。

「心配いりません。リンチ少将は小官に脱出計画を委託されました。リンチ少将は自ら囮になり、我々を逃がそうとしてくださっておられるのです。さぁ、急ぎましょう。リンチ少将の脱出した方向とは別の方向に飛びます」

 ヤンの落ち着いた話しぶりに鎮静化した民間人たちは一斉にシャトルに乗り込んだ。


帝国軍増援艦隊艦橋――
■ アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン

 いよいよだ。ヤン・ウェンリーがやってくる。エル・ファシル本星から脱出船団をリンチ少
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