暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 14
[4/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
る。
 問題は、そうじゃなかった場合。
 たまたま偶然通り掛かった盗人の、行きずりの犯行だとしたら。
 半日以上経過した今、当たりの付けようがない。
 物も人も見知らないんじゃ、後を追うのは絶望的だ。
 しかし、村にはシャムロック用に海賊の見張りが付いている。標的を隠した教会にも目を光らせてると考えて、まず間違いない。横取りなんて、奴らが見逃さないだろう。
 そうだ。村には海賊共の目がある。自警団とアーレストは微妙だが、警備隊だって国境沿いでネアウィック村を見据えてる。不審な動きをする人間は、あっという間に露見する状況……それでも指輪は消えてしまった。
 この手際の良さ。仮に海賊共の仕業じゃないとしたら、同業者の臭いが濃くなる。
 指輪を追跡していた裏稼業の人間がいるとして、その人物による犯行だとすれば……此方も追い掛けるのは難しい。行きずりの盗人と同じ程度に厄介だ。
 礼拝堂は荒らされてなかった。侵入の痕跡も無し。犯行予告も声明も無い。静寂と沈黙に守られた完璧な盗みは、暗躍型の特徴。誰も正体を知らない盗人が相手って事になる。後を追うなら、奪われた物品の流通路か、実際に人物の影を掴まなきゃいけない。どっちにしろ半日以上経過してたんじゃ、とっくに一般民化で雲隠れしてる。お手上げだ。
 残り二日で見知らない指輪の流通路を探れる手段があるなら、誰でも良いから是非ともご教授願いたい。
 銀の台座に丸くて青い石を乗せた指輪なんて、同価値の類似品が世界中に何種類、どれだけ溢れてると思う? ネアウィック村の近辺だけでも、右を向いた瞬間、左にひょこっと現れるだろうな。
 例え全部を集めて一列に並べようと、どれが目当ての指輪なのか。そもそも現物を見てないミートリッテには判別不可能だ。そんな事態に陥っているとしたら……想像だけで背筋が凍る。ペンを握る手に過剰な力が入り、引いた線がいきなり太くなった。
 海賊共による憎たらしくもまだマシな所業か。
 空気を読まない大迷惑な同業者の犯行か。
 確率は低いが、行きずりの泥棒か。
 そうして思考は再び最初に戻る。
 探しに行きたくても、アーレストや自警団が許してくれない。探し方も分からない。言葉通り八方塞がりな室内で、複製した文字列ばかりが積み重なっていく。
 「……ミートリッテさん」
 「え?」
 唐突に。アーレストの両手が、ペンを持つ小さな手を包んだ。
 何事かと驚いて見上げれば、燭台に照らされた神父の瞳がミートリッテを真っ直ぐに捉えている。
 「もうすぐ外が暗くなります。今日はこのくらいにしておきましょう」
 ペンを取られ、教本を閉じられた。
 薄暗い室内に気付き、もう夕方なのかと落ち込む。
 (指輪が失くなって丸一日。私に残された時間は、たったの二日。どうしたら良い? どうしたら
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ